私、自分に嘘をつかないことが
              一番良いことだと思っているの
                (「宗方姉妹」から節子の言葉)
あらすじ
東京に住む宗方節子(田中絹代)は、京都の大学教授内田(斉藤達雄)を訪ねて、父宗方忠親(笠智衆)はガンで、あと半年か1年の余命だと知らされる。
節子の妹満里子(高峰秀子)も父忠親の家を訪ねて、父の古くからの知り合い田代宏(上原謙)と出会う。田代は神戸で、家具屋をやっていると聞き、後日満里子は田代を訪ねる。満里子は、姉節子の日記を盗み読みしていて、姉が過去に田代と交際していたことを暴露するのだが、田代は終始笑顔で聞き流していた。
 
一方、節子の夫三村亮助(山村聡)は、失業中で求職はしているものの、仕事は見つからず、同居している妹満里子とは馬が合わない。満里子は節子の日記を読んだことを暴露して、「姉さん、何故宏さんと結婚しなかったの」と訊ねる。節子は「当時は、あの人のことが好きかどうか分らなかった。そのうちにあの人はフランスへ行ってしまったの」と淡々と答えた。節子は夫が失業しているのでバー「アカシア」を経営していた。「アカシア」に訪ねてきた田代に対し、節子はバーの経営が苦しいことを言うと田代は「僕に任せてください」と去って行く。
 
その日遅く満里子が自宅へ戻ると三村は出かけていた。節子は満里子へ帰りの遅いことを注意すると「この家は陰気臭い」と日頃の鬱憤を吐き出す。節子は落ち着いて「結婚とは良いことばかりではない」と諭すのだが満里子は「姉さんは古い、古い」と言って立ち去る。
 
後日、満里子は神戸の田代宅に行き、姉と何故一緒にならなかったかを問いただすと田代は「節子さんを幸せにする自信がなかった」と答えた。そのとき突如満里子は田代へ「満里子と結婚してくれない。」と切り出し立ち去る。
 
そのころ節子の家では、三村が節子に「バーの資金は出来たか」と聞く。「田代から借りたのか。俺には知られたくなかったのか。田代とはちょくちょく会っているのか」としつっこく聞く。節子は「誤解です」と答えたが三村は二階に上がってしまう。節子は三村を追いかけ、「店は辞めます」というと「お前の好きなようにしろ」と冷たく言う。
 
満里子は東京に来た田代の旅館を訪ねた。神戸で言った「結婚してくれ」というのは本気の部分もあるが冗談だったと言い訳を言い、節子がバーを辞めようとしているので会ってやってくれと告げる。
 
その後、満里子が「アカシア」で客待ちしていると突然、三村がやって来る。満里子が「明日で店は終わりよ」と言うと三村は「知らんよ」と答える。満里子は三村に「勝手すぎる」と言うと「酒を飲んでふらふらしているのも捨てがたい」とつぶやき壁に向かってコップを投げつける。数日後、三村は節子へ「俺達は別れたほうがいいのか」と切り出し、「何故」と問う節子へ「お前が一番知ってることだ」と口調を荒げて節子を叩く。
 
そのことによって、節子は三村と別れる決心をして、田代の居る旅館を訪ねる。そのとき三村も後から旅館に来る。三村は「仕事が見つかった。ダム建設の仕事だ。喜んでくれ」と話し、祝杯だといいながら立ち去ってしまう。
その夜、雨でずぶぬれになった三村が自宅へ戻ったが、帰宅後心臓麻痺で死んでしまう。
 
田代と会った節子は「三村は普通の死ではない。そんな暗い影を背負ってあなたのところへ行けない」と言い残して田代と別れる。また節子は満里子に対しても「自分に嘘をつかないことが、一番いいと思っている」と言って京都御所から山を見上げながら二人で帰宅する。
 
感想など
1 一組の夫婦の崩壊夫婦とはなにかということを考えさせる映画でした。
 
2 姉妹の会話から姉節子が妹満里子に「私は古くならないことが、新しいことだと思 うのよ」と言っています。そこから古風な姉ドライな妹という構図のようですが私 はそうではないと思いました。
 姉は、古い日記を盗み読みされても「過去のことはどうでもいい」と言い切りまし   た。過去よりも現実と未来に顔を向けて生きています。
 それに比べて、妹は過去の恋愛にこだわっています。過去に愛し合っていたのだ からこれからも上手く行くと思い込んでいます。妹の満里子の方が保守的で古風な 感じがします。
 
3 節子は「三村の死に方に暗いものを感じる。こんな暗い影を背負って生きれば、 あなたも暗くしてしまう。気の済むようにさせてください」と田代に心境を述べます。
 田代は「気の済むまで僕は待ちます」と言いますが、「ただそれだけで幸せでした」 と言って走り去ります。
 
4 姉節子は、京都御所や薬師寺、仏像などを愛していたようです。過去から現在ま でずっと風雪に耐えてきた古い美しさは新しいものと同じものだという考え方です。 それは長年培ってきた夫婦の絆の美しさに拘ったものだと思います。
 しかし、日記に書いた古い過去は、未来のためには不用であり、誰に読まれても  現在の自分とは関係ないと思ったのでしょう
 
5 姉夫婦を妹は古い古いと批判します。しかし、姉は夫婦についてこう述べます。
  満里子「姉さん、つまらないとは思わない」
  節子「満里ちゃんには、まだ分らないの」
  満里子「なにが」
  節子「そんなもんじゃない、夫婦っていつもいいときばかりではないの」
  満里子「お互いががまんしないといけないの」
  節子「夫婦ってそういうものよ」
  満里子「そんなのつまらない」
  節子「つまんなくない、それでよくなるのよ」
  満里子「それは姉さんの考え方よ。そんなの嫌いよ 姉さんは古い、古い」
  節子「私は、古くならないことが新しいことだと思うの本当に新しいことは、いつまでたっても古くな      らないことだと思っている」
  
6 仕事のない男の自尊心を失った哀れさ、恥ずかしさ、捨て鉢な根性を山村聡は  上手に演じていました。田中絹代、高峰秀子が姉妹の性格をそれぞれ出していて 見ごたえがありました。
 
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  父の友人の医師から父は余命1年と節子は聞く     姉に何故田代と一緒にならなかったと訊ねる     
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        義兄への鬱憤を姉に言う                バーの壁にコップ投げて三村は笑う
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       田代に誤解して三村は節子を叩く             三村の死後に田代は節子と会う
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三村の影を背負って田代のところへは行けないと語る     京都御所から山の紫を見ながら帰宅する