★ 短剣

 

 鏃同様最初に鉄で造られた武器が、短剣である。鉄剣と言われる。だが、ヒッタイトで造られた鉄剣は、残っていないのか不確かだが写真情報がない。とにかく鉄剣の最大の弱点は錆びて腐食することであるから、数1000年を経て残っている可能性は小さい。

 

 わが国の古墳から発掘された鉄剣も、ほとんど全てが錆で包まれた物である。有名な埼玉県行田市の稲荷山古墳から発掘された稲荷山鉄剣もそうである。しかしこの全長73㎝の鉄剣は、錆の下から金象眼で115文字の銘文が出て来たので、国宝となった。古墳時代後期471年の物と判定されたので、この時代にヤマト政権の勢力が、東国まで及んでいたことが分かったのである。この鉄剣は、筆者の在籍した旧新日鉄の基礎研究所の研究者が詳細に分析し、製法を明らかにしたので、その内容も知っている。鉄剣は、沙鋼法と言われる製造法で造られた地金を使用している。2相構造になっていて、心金は炭素0・4~0・5%で、両側に炭素0・2~0・3%の皮金を、数回折り返し鍛接して造られている(5)。

 

 短剣はあまり定義が明確ではない。刃渡り10数㎝から20㎝程度であることだけで、日本刀の脇差・短刀・両刃のダガ―ナイフ・片刃のナイフなどが含まれる。現在は5・5㎝以上のダガ―ナイフは所持禁止であり、バタフライナイフ・ツールナイフ・サバイバルナイフも理由なく携帯すると違反である。

 

 イラストには、上部にツタンカーメン王の鉄剣を、下部にはダガーナイフを示した。ツタンカーメン王鉄剣は、松井孝典資料を参考にしたものであり(1)、ダガーナイフは警視庁のツイッター掲載写真を参考にさせて頂いた(6)。

 

 ツタンカーメン王の時代は紀元前1361~1352年であるから、鉄剣は3400年近く前の物である。2020年に松井孝典他がエジプト現地で蛍光X線分析によって解析した結果、鉄隕石から造られた物であることが判明した。鉄隕石はニッケルを10%程度含んでいるのだが、この鉄剣は11・8%含んでおり、低温鍛造で造られたと判断され、国外から持ち込まれた物であると考えられた。しかし、イラストでも分かるように、とても数1000年経ているとは思えないくらい錆が非常に少なく、よほど環境の良い所で保存されていたのだろうと思われる(1)。

 

(1)  松井孝典「人類が製作した最古の鉄球の発見」

   <https://www.chibadoyukai.jp/wp-content/uploads/2020/10/8564453dafc8df2bd94cbb2aa2a9aae2.pdf>

(5)  佐々木稔他「〝稲荷山鉄剣〟の製法と復原の試み」日本金属学会会報、第22巻、第9号、88ページ、

   1983年。

   <https://www.jstage.jst.go.jp/article/materia1962/22/9/22_9_832/_pdf/-char/ja>

(6) 警視庁生活安全部 <https://twitter.com/mpd_yokushi/status/1511265135264174080>

       <上:ツタンカーメン鉄剣 下:ダガ―ナイフ>