昨日見つけられなかった
高田敏子という
詩人の詩が見つかりました。

『手の記憶』でした。

覚えていたのと違うところも
ありました。

全文引用します。

『息子が久々に顔を見せて
お母さん、ビールぬこうか?
そうね、冷えてはいないけれど
私は買いおきのビールを息子の前に置きセンヌキを出し
息子の手がセンヌキをとり上げ
センをぬく手つきを見ている
コップ!といわれて
あわてて立ち
コップを二つとり出して
息子の手がその一つを私に渡し
ビールをついでくれるのを
見ている
息子は次に
自分の前のコップにつぎ
ちょっと乾杯の仕草をして
一気に飲み干すと
じゃあ、とコップを置いて
立ち上がった
忙しいから、また来るよ
そぅお
息子を送り出したあと私は
息子の手ばかりを見つづけて
いたことを思った


息子の手は美しかった
三十歳を過ぎたばかりの男の手
若い男の手は みんな美しい
つややかで
のびやかで
力強い

その手は
私の肩を抱き
「じゃあ」と
挙手の礼をして
日の丸の旗の振られる
むこうに消えていった

そしてその手は何をしたか

挙手の礼のその
ぴんとそろえた手の形を
私は忘れない
私は息子の手に
その手を見ていたのだろうか

息子の手は挙手の礼をしなかった
また来るよ
またの時間を残していった
にしても
美しい男の手が
挙手の礼をしたまま
消えてしまったことを
私は忘れない』



高田敏子さんも
猫が好きだったようです。