◆追悼 エリザベス女王◆


1976年、セックス ピストルズ(Sex Pistols) のマネージャーのマルコム マクラーレン(Malcolm McLaren)は以前にクロイドン・アート・スクールの学友だったジェイミー リード(Jamie Reid)にバンドのヴィジュアルアートの協力を求めました。

ジェイミー リードはアクションペイントのジャクソン ポロック(Jackson Pollock)に心酔していました。

二人とも1957年に結成された国際状況主義連盟、シチュアシオニスト・インターナショナル(Situationist International)に強く影響を受けていました。

団体は資本主義の秩序を認めながらも、「別の状況」をつくることを提唱した。

そして20世紀初めのダダイズムに知的基盤を持ち、その前衛、実験性を重視し、その為の手段として剽窃を行った。

剽窃とは既存の作品をそのまま投げ返す行為です。

セックス ピストルズの『アナーキー・イン・ザ・U.K.(Anarchy in the U.K.)』のジェイミー リードによるポスターはロンドンの土産物のユニオンジャックを切り裂き、それをセーフティピンで乱暴に繋ぎ合わせ、その上に切り取り文字をコラージュしたものでした。

続く、シングル『ゴッド・セーヴ・ザ・クイーン(God Save the Queen)』ではセシル ビートン(Cecil Beaton)が撮影したエリザベス2世(Elizabeth the Second)のポートレイトを借用しました。

公然と即位25周年を迎えたエリザベス女王を批判する内容は多くのスキャンダルが起き、それが逆に人気になりました。

シングルのジャケットでは女王の目と口の部分が切り裂かれ、切り取り文字によるタイトルとバンド名が無慈悲にも埋め込まれています。

ポスターでは無残にも彼女の笑顔の唇に大きく鋭利なセーフティピンが貫通し留められています。

一連のヴィジュアルイメージはマルコム マクラーレンのパートナーだったヴィヴィアン ウエストウッド(Vivienne Westwood)によってアパレルに荒々しく活用されて、彼らのブティックで販売されました。

以降、王室、政府とパンクムーブメントとして認知されたそれらの活動の対立が鮮明になっていきました。

しかし、彼らにとってそれは初めて知る経験ではありませんでした。

1968年に一部のパリの大学生による学生運動に端を発した五月革命は、世界中へ伝播し様々な社会運動を引き起こしました。

しかし、イギリスでは大規模な運動は起きず、若者達に虚無や無力感を残していました。

その潜在感に10年ほど遅れて意図的に体制を仮想敵として想定し、対立を発生させたのがマルコム マクラーレン、ジェイミー リード、ヴィヴィアン ウエストウッドそしてセックス ピストルズのヴォーカルで実存主義者気取りのジョニーロットン(Johnny Rotten)らでした。

彼らは1960年代のメッセージポスターと同じようにダダイズムに従い、D.I.Y(Do It Yourself)つまりハンドメイドによってヴィジュアルやアパレルを制作しました。

アメリカでアンディ ウォーホル(Andy Warhol)がガレージバンドのヴェルヴェット アンダーグラウンド(The Velvet Underground)をアートバンドのように仕立てるのを真似てマルコム マクラーレンはパブバンドだったセックス ピストルズを無政府主義者として演出しました。

アンディ ウォーホルがセックスシンボル、または理想の女性のマリリン モンロー(Marilyn Monroe)の顔をシルクスクリーンでべったりと、けばけばしく着色しただけのものを作品としたようにジェイミー リードはイギリスの象徴の女王の唇にピンを刺しただけに過ぎません。

女王の存在感なくしてこの作品の存在意義はなく、正にそれがダダイズム、それに続くポップアートの系譜であることを証明しています。

王室に対する不敬罪が存在しない寛大なイギリスでしか実現出来なかったこの一連の作品が、その後の世界にどれほどの影響を与えたかはここで語るべくもありません。

1960年代の運動と同じく明確な大儀もないムーブメントは短期間で失速しましたが、僅か10年の間に二度起こった現象のインパクトは現在にまで至っています。

そこにはインパクト以上の認めざるを得ない何かしらの美が存在し、創造と破壊の繰り返しは人間の歴史、本性そのものだからです。

そして、おそらく王室と国民の両者はお互いにその役割を承知の上に関係を持っているようです。

2012年ロンドンオリンピックでは開会式の冒頭のショートフィルムでアンダーワールド(Underworld)による選曲で「ゴッド・セーヴ・ザ・クイーン」が流れ、その後のダニー ボイル(Danny Boyle)のフィルムでは女王自らがダニエル・クレイグ(Daniel Craig)扮するジェームズ ボンドと出演した記憶も新しい。

エリザベス女王は実に70年もの間、その立場、人格において尊敬の念を受けながらも同時に体制に対する批判、嘲笑を甘んじて一身に受けてきました。

ヴィヴィアン ウエストウッドは女王への直筆の追悼メッセージをSNSで発信し、元セックス ピストルズのジョニーロットン改めジョン ライドン(John Lydon)も追悼の意を示しました。

シニカルなイギリス人はお互いを批判しながらも、醜聞でさえも人間的魅力として捉え、親しみを抱きあってきました。

その国民性や伝統、審美観を示す作品が多く弊店にはございます。

エリザベス女王が愛したスコットランド地方の複雑な色合いのタータンチェック、ジェイミー リードやマルコム マクラーレンが手掛けた激しいパンクアイテム、クラシカルで優美なヴィヴィアン ウエストウッドの作品群です。

それぞれが美しさもさることながら、様々な栄光と苦難のストーリーを持ち、それも私達を魅了します。

機会があれば、是非御手にとり、御覧ください。

そして改めて哀悼の意を表します。

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