小説「この世に戻ってきました」 | 小説家を目指し始めた

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ひたすらカケラを書きためてゆく。

電話ボックスの中に入ったら、閉じ込められた。
扉は開かない。押しても、引いても、ダメだった。
パニックになり、叫び、わめき、扉を叩いたが、
どうにもならなかった。

そのうち、その電話ボックスは宙に浮き、

商店街を歩く庶民の頭の上まで昇り、ついには、
電信柱の電線にぶつかり、そのまま電線をぶっち切って、
三階のビルの屋上の高さにまで到達し、そこで止まった。
僕を乗せた電話ボックスは、ふわふわ、空中に浮いていた。

『なんのアトラクションなんだ?

ジェットコースターか?何が始まるんだ?』

下を見ると、待ち行く通行人たちが

心配そうに電話ボックスの中の僕を眺めていた。
どうすることもできず、脱出方法を考えていた。

『夢か?現実か?

新しいシミュレーションゲームか?』

通行人と目が合うのも恥ずかしい。

とりあえず電話をかけてみたら?

完全にパニくってた。
電波の状況次第で、なんとかなるだろう。と。
慣れない手つきで、
電話ボックスの受話器を耳にあてた。
プーッという発信音が聴こえる。
ボタンを押した。「1・1・9」
「1・1・0」でも良かったのかもしれない。わからん。
この場合、どっちなんだ?・・・わからん。

そのうち、電話ボックスは、

ラジオのようなホワイトノイズと共に

虹色の光りに包まれて、
ブンッ♪という衝撃音で、どこかへ転送された。


ますますパニくったが、諦めるしかない。

『南の星空の海を漂っているのか?北極星はどこだ?
どこへゆくんだ?酸素はあとどれくらい?・・・』
なんて、考える暇もなく、

長い長いブラックホールのトンネルの中に、
落ちてゆく。寒い!吸い込まれてゆく。

鳥籠の中の冷凍チキンになった気分だ。
なんの抵抗もできなかった。

トンネルを抜けたら、青白い光が見えて、
どこかの星の丘に不時着していた。
電話ボックスの扉を押してみると、
ミシッと鳴り、かんたんに開いた。

ほんの少しの解放感。そして無限の不安。

空は、夕焼け?朝焼け?

夜になるのか?朝になるのか?
森のない大地に、うす茶色の河が流れ、
紺色の山々が遠くに霞む。

ここは古代。ミドリムシの時代だった。
世界が始まる前の世界、に居た。
藍藻?が作った空気を吸っていた。


「暴力」で世界を支配したティラノザウルスは居なかった。
「悪知恵」で世界を買い占めた死の商人も居なかった。
とてつもなく静かな時代にタイムスリップしていた。

電子顕微鏡を持っていれば良かったんだが、
ポケットの中には何もない。

ターザンのように暮らせるかどうか?

少し思案してみたが、三秒で無理だと悟った。

単細胞生物しか居ないのだから。

また電話ボックスの中に入ることにした。降参だ。
動くかどうか、わからないが、なんとかなるかもしれん。
別の時代、別の世界に行こう。
受話器を耳に当てて、『1・1・4』と押す。
プルルルッという呼び出しの発信音は聴こえる。
頼む、動いてくれ!

ブンッ♪という衝撃音と共に、
電話ボックスはどこかへ転送され始めた。
虹色の光りに包まれて、銀河の海を漂い始めた。
やがて、またもやブラックホールの中に落ちていく。
長い長いトンネルの中、宇宙の果てをイメージして、
意識は無の境地へと落ちてゆく。
やがて、長い長いトンネルから抜け出して、
別の宇宙のどこかに不時着するだろう。

目覚めたら、別世界・・・

え?夢オチなのか?って?
知らないよ。そんなこと。