部屋の音響と楽器選び | 弦楽器工房Watanabe・店主のブログ

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今週は、珍しくレッスン室でお客様のチェロを選定していただく機会がありました。

楽器選びについては、基本的に今までと同様に店舗だけで間に合わせていますが、やや高額のものを試奏する時などに、レッスン室を使ってじっくりと吟味していただく事があります。天井が店より30センチ高く響きに余裕が出てくるため、こちらで弾く方が楽器の違いがよく分かるという方もおられます。さらに3つのレッスン室はそれぞれに響きの趣きが異なり、計4部屋のどの音を基準に置いたらいいのか、正直なところ私自身も明確な答えが出せない状況にあります。
理屈の上ではその人の居住する空間ごとに違う音が出来上がるはずで、壁やカーペットの質、家具の配置などすべてが微妙に音響を変質させる要因になるでしょう。しかしそれを言い出すと際限の無い話になるので、少なくともお客様の楽器選定に際しては、部屋の条件のことはあまり深追いしないようにしています。

しかし私の過去の経験上、買った後に自宅で鳴らす音があまりに店の音とかけ離れていて失望したとか、返品したいと言われたことは一度もありません。不思議と言えば不思議なことですが、人間の耳はコンサート会場のような音響効果を考え抜いた空間でなくとも、楽器の本質的な性格をかぎ分ける能力を持っているようです。狭い洋室で弾いても、音の反射が少ない和室で弾いても、表面上の違いはあれ楽器の地の性格だけは残るという事なのでしょう。

そう考えると、楽器選びでは純粋にヴァイオリンやチェロそのものの品質を問うことが肝要になってきます。音色や性能が各人の感性に合うかどうかを、正直な気持ちで見極めれば間違った選択はしない。これは、一般消費者に楽器を提供する我々業者が仕入れをする際にも、先ず大切にしなければならない感覚です。