仙台堆朱 | 弦楽器工房Watanabe・店主のブログ

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明治時代、新潟県の村上堆朱の職人が仙台に来て技を伝授し、以後当地の銘産として定着した仙台堆朱(せんだいついしゅ)。木の粉末を固めた素材を型押しし、朱の漆を塗り重ねてから黒で古色を入れるという特殊製法による美しい漆器で、その彫りの深いエキゾチックな文様は、薄暗い灯りの下でも鮮やかに浮かび上がります。「堆」(つい)は「うずたかく積み上げる」という語、「堆朱」は朱を何度も塗り重ねるという意味になるでしょう。
(これは一応「名刺盆」ですが、大きさは葉書二枚分くらい。他には道具箱、ペン皿、手鏡などがあります。)
日本古来の漆とか金箔を施したような工芸品は、刺激の強い電球や蛍光灯よりも、淡くゆらめく蝋燭の火の傍らで見る方が色形の良さがよく分かる、という話を何かで読んだ記憶があります。弱い光で装飾がくっきりと浮かび上がる堆朱も、そうした時代背景を持つ芸術品の一つかも知れない。西洋アンティークの家具や食器には、しばしば現代人の感覚では煩く見える装飾が入っているのがありますが、あれなどもほの暗い空間の中で敢えて視覚に訴えうるアクセントを付ける意図があったのではないか。対してモダン家具というのは、椅子でも机でも、総じて形がのっぺりしている。LED電球のシャープな光に慣れた今の人が、新しくお盆や道具箱をデザインしようとしたら、おそらく仙台堆朱のような彫りの深い文様は採らないでしょう。