経営理念ができても、その言語化された理念が現場で実行されなければ、絵に描いた餅です。
私の会社の経営理念は、「お客様のそばで自己実現。真心経営で幸せへの貢献」でした。
顧客の悩みを聞かずに商品を売り込むだけだったら、理念が行動に反映されません。
顧客からも、全然逆のことをやっているじゃないかと、信用を失うのが落ちです。
実態とはかけ離れた理念を打ち上げるぐらいなら、経営理念は要りません。逆効果です。
こう考えてみましょう。
会社が誰を幸せにするためにあるのかという原点に帰り、それを実現するため、自分の会社の強みを探す——それが経営理念を創ることなのだと——。
いいチャンスに恵まれたと思ってください。
だって、幸せにする人に向け、自分の強みを提供するわけですから、業績が上がらないはずがありません。
さて、経営理念ができました。
そのままでは絵に描いた餅です。
あなたなら、その理念を社内外に、どう浸透させますか?
日頃から行っていること、言葉に発していることが、そのまま理念であれば問題ありませんが、現実が理念とイコールということは稀です。というか、皆無に等しいでしょう。
どこかに足りないところ、現実と理念との間に、何らかのギャップがあるはずです。
そのギャップを知らなければ、理念に向くことはできません。
たとえ、そのギャップを知ったとしても、理念に向かう行動がなければ意味がありません。
経営理念は、行動を起こすための意思です。
重要な旗頭ではありますが、そのままでは社員の行動や顧客の評価を喚起できません。
結論は、経営理念→理念経営にしましょう、ということです。
つまり、意思を行動に昇華させる必要があるのです。
先輩社長や、著名な社長のビジネス本など、周辺の情報をもとに、私が行った理念の浸透策を以下に記してみます。
・経営理念の見える化→まずは、経営理念のパンフレットを制作しました。そして、理念へのこだわりが人一倍強い社長仲間に手伝ってもらい、なぜこの言葉を経営理念にしたのか、競合他社と比べた当社の強みは何か、社会的な存在理由は何か、それを顧客にどう伝えるか、社員全員を集め、伝える時間を設けました。
その社長仲間を顧客と想定し、ロールプレイングも実施しました。
・行動原則の作成と唱和→経営理念を行動化する場合の行動原則を作り、週1回、朝礼で唱和しました。(「タイミングの良さは、小さな積み重ねの成果」など11種類)。
新卒の会社説明会では、最初に経営理念の話をし、行動原則の中で、何がいちばん自分にフィットしているか考えてもらいました。
・具体的行動の言語化→原則は理解できても、具体的な行動例がなければ、社員はなかなか行動に移しにくいものです。そこで、行動例も原則につけ加えて言語化しました。
「タイミングの良さは、小さな積み重ねの成果」(行動原則)→「顧客からのご連絡はフォロー不足の結果。喜びよりも反省」(行動例)というような具合です。
・判断基準の明確化→経営理念を社員の日常行動に反映させるために実施したことがあります。それは、社員から日常の悩みをピックアップすることでした。
その悩みは合計32個ありました。
まずは、社員全員でその悩みの対処法を考え、答えを出させました。最終的に、社員の総意の答えと私の考えをすり合わせ、経営理念に結びつけるという作業を行いました。
週1~2回、1回あたり1時間・・・32の経営理念を行動化するための判断基準を作るために要した期間は6カ月でした。
・社員個人の理念を作成→社員には自分の人生があります。「お客様のそばで自己実現」をする対象者は、社員一人ひとりです。その社員の自己実現を理念にしている以上、社員自身の人生に対する理念を言語化することは大切なことです。
社員の理念と会社の理念の合致した部分で社員マネージメントしていけばいいのです。
私は、会社の理念と社員一人ひとりの理念を並列で記した名刺を作り、社員に持たせました。
以上の浸透策を実施した期間は1年です。
結果、どうなったか——。
・顧客と社員の距離が近くなり、1社からの取引額が増えた。
・社員が自信を持ち、顧客の前で自分が語れるようになった。
・社長がいない時でも、トラブル・ミス対応ができるようになった。
・トラブル・ミスの総量が激減した。
・当社の強みに、たくさんの顧客が集まってくれた。つまり、新規顧客が増えた。
・社員が定着してくれた。
明らかに業績は上がったのです。
何よりも、この会社の成熟期初期に、30年経営の土台ができたのが一番の成果でした。
それは、経営理念を創り、理念経営を実行したからです。
これから起業されるあなたには、起業時から理念経営することをお奨めします。
早いに越したことはありません。途中途中、見直しを図っていけばいいのです。
今経営に悩んでいるあなたには、もう一度原点に帰って理念を言語化し、行動を見直すことをお奨めします。
ところで——。
経営理念は、行動化すると同時に、社員評価にも反映させたいものです。
そのお話はまた。