購入してから1年半になったFostexのパワードスピーカーPM0.5dだが,この頃飽き足らなくなっている(写真1).オーディオのメインシステムは別にあるのでPCスピーカーは割り切ったつもりだったが,作業中BGMを流したくなることはある.そのとき何としてもボーカルに魅力がないのだ.

 

写真1.Fostex PM0.5dパワードスピーカー.

 

僕は10代のころから長いことダイヤトーンのP610やフィリップスのAD5061/Mというフルレンジユニットを聴いてきた.どちらも当時すでに旧式化していて,低音は出ないし高音も真正面しか出ない周波数帯域の狭いスピーカーだったが,中音域は良かった.

 

それに比べると過去のメーカー製2ウェイや3ウェイスピーカーシステムは,周波数帯域は広いし大音量をだせるが,ボーカル帯域についてはあまり感心しないものが多かった.

 

2ウェイでは,ウーファーがボーカル帯域を担当することがほとんどだが,ウーファーは低音を出すため振動板がフルレンジより重く硬く作られており中音域がボワボワになりがちだ.また,ツィーターとのクロスオーバー周波数が高くて,ウーファーの指向性が出てくる周波数以上に設定されていると,斜め方向で中音域にスキマが生じてしまう.二つのスピーカーと聴き手が三角形をなして,しかもスピーカーが正面を向いているとそうなる.

 

専用のミッドレンジユニットをもつ3ウェイならからいいかというとバックチェンバー容積不足の問題がある.スピーカーのエンクロージャーの中では,ウーファーの発する低音に揺さぶられることを避けるため,ミッドレンジユニットの後ろに独立したバックチェンバー(料理に使うボウルのようなもの)を被せてある.このバックチェンバーの容積が十分取れないと中音域が詰まった音になってしまう.B&Wの800シリーズが成功した一つの理由は,ミッドレンジのバックチェンバーを独立させて大きめの容積を確保したことだと僕は考えている(写真2).

 

写真2.B&W 802 Diamondのミッドレンジとツィーター.

 

というわけでPM0.5dよりボーカルがきれいに聴けるスピーカーが欲しくなってきた.アンプもいるのは覚悟の上である.しかしこの頃加齢のためかキーンと耳鳴りがするようになったのは,もうオーディオは引退しろという啓示だろう.なので既製品の上質な小型2ウェイではなくより安価なフルレンジスピーカーに回帰する気になった.

 

P610は16cmスピーカーだが,16cmのフルレンジというのはナローレンジなAMラジオ放送時代のものであって,音源が広帯域化した今日ではいくら何でも高音の指向性が鋭すぎて成立しないといっていい.なので口径は高音の指向性が多少良い12cmか10cmということになる.これくらいの小口径でも今ではP610より低音が出るようになっている.

 

note.comのFOSTEX公式アカウントでは,対談で同社のスピーカ設計者である乙訓克之氏が,「コンパクトながら十分な再生帯域を得られますし、対応するエンクロージャー方式も多く、組み合わせの応用範囲が広いです。使い勝手が良く、満足度も高いのが10cmフルレンジだと思います。」と発言している.

 

 

一方で見逃せないのは,現代の3ウェイのミッドレンジユニットには大きめのユニットが使われる傾向があること.JBLの4312やL100は12.7cm(5インチ),B&Wは15cm(6インチ),フォーカルは16.5cm(6.5インチ),ダリのOBERON9に至っては18cmもある.

 

フォステクスのカタログを見てフルレンジユニットを二つ候補に挙げた.一つは12cmのFF125wkに同社のエンクロージャーBK125WB2の組み合わせ.FF125wkは希望小売価格7,700円と手頃で,アルミセンタードームで高音を補っている.もう一つは10cmの限定生産品FE108ss-hp.これは27,500円の高級品であり,振動板がフォステクス独自の形状をしておりエッジも幅広,磁石がデカく,フレームも頑丈で他の10cmユニットと12cmの中間の大きさがある.

 

YouTubeで空気録音の動画を聴いてみた限りでは,安価なFF125wkでも十分よい音がする.だが考慮の上FE108ss-hpを注文した.10cmは未経験なことと,限定品が買えるなら試してみようという理由である.

 

エンクロージャーは,バックロードホーンやダブルバスレフ型というのもあるが,バックロードホーンは近くで聴くものではないし,ダブルバスレフ型も今回調べて初めて知ったものでまだよくわからないので,今回はオーソドックスなバスレフ型であるベアホーンのDB108ss-hpを選んだ.

 

 

大きさはW168xH326xD243mmで,PM0.5dの165x270x215mmより少し大きく内容積は9.3Lある.これはBK125WB2の168x324x249mmにほぼ等しく,フォステクスの10cmユニット用のエンクロージャーとしては大きめである.コイズミ無線扱いのダブルバスレフエンクロージャーも空気録音での印象は良かったので,今後機会があれば試したい.

 

 

 

ユニットは在庫があるのでほどなく来るだろうが,エンクロージャーは注文生産なので一か月くらいかかるそうだ.その間にアンプを検討する.