上昇、加速を終え、水平飛行に移った辺りで、CAさんより機内放送が流れる。「皆様、ただいま当機は着陸態勢に入っておりましたが、再び上昇を致しました。詳しいことが分かり次第、ご案内申し上げます」。そして、CAさん全員が機内連絡用の電話で操縦席からの情報をひたすら確認している様子だった。

状況は全く分からない。ただ、確かなことは、機長がとっさの判断で着陸を中止し、この後の対応について検討しているということだ。

そして、少し経ってから機体は左に傾き、進路が変わり始めた。34L滑走路を降り立とうとしていたことから、恐らく、東京湾を旋回することになったのだろう。

飛行機自体は安定しており、特段変わった様子は無く、何の問題も無い様に思える。

そして、機内には追加のアナウンスが流れる。「機長よりご連絡致します。滑走路に落下物があったため、滑走路が変わりました。あと5分から10分程度で着陸できる見込みでございます。」

なるほど、そういうことだったのか。でも、着陸寸前までいったということは、機長が目視で滑走路上の落下物を確認したのだろうか。

気がつけば、窓の外には、東京ディズニーリゾートの夜景があらわれた。今の期間、ディズニーシーではキャンドルライト・リフレクションズというイベントが開催されているが、メディテレーニアン・ハーバーに電飾された巨大クリスマスツリーがすぐ下に見えた。ということは、東京湾沿いをつたって22滑走路へ降りるルートだということが分かった。

このルートはお台場の建物を避ける形で進むため、直前まで旋回が行われる。テレビモニターを凝視していると、誘導灯が画面左上から斜め右下に見えた。そして、最後に大きく左旋回をしたところで、22滑走路が目の前に映し出された。

ほどなくして、機体は無事に羽田空港に着陸した。

今年、109回目のフライトだったが、未だこのような経験をしたことは無い。恐らく、この後もまず無いだろう。大事に至らなかったことに安堵し、飛行機を降りた。
通常、このタイミングで着陸を中止するというのは有り得ない。間違いなく、何らかのトラブルが発生している。この異変に気づいた周りの乗客は、自分が今置かれている状況を確かめようと、一斉に窓の外を見始めた。まさか前輪が出ないのか?!そしたら東京湾に胴体着陸か?!私の頭の中では一瞬で様々なシチュエーションがよぎった。この便には会社の同じプロジェクトの人間が他に四人乗っている。何か一大事が起きれば、今のプロジェクトに甚大な影響を及ぼし兼ねない。一体、どうなってしまうのかと不安を隠し切れない半面、いやいやまさか大したことは無いだろうと楽観視している自分もいた。
今日、いつも利用している伊丹から羽田行の最終便で異変は起こった。羽田到着近くになり、窓の景色とテレビモニターに写しだされた滑走路を何気なく見ていた。車輪も既に下り、揚力を増すための補助翼も伸びた状態であり、素人ながら、いつもと同じ手順で最終着陸態勢に入っていることを理解した。飛行機は誘導灯に沿って降下を続け、そして滑走路先端を越えたところでエンジン出力が更に落とされ、まさに着陸しようとした瞬間、突然機首が上がり、エンジンがフルスロットで轟音を立て始めた!何と飛行機が上昇し始めたのだ。