AI vs. 教科書が読めない子どもたち

RST(リーディングスキルテスト)とは?後編

 

AIの限界と、日本の中高生の多くが中学校の教科書を正確に読めていないことを明らかにした『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』・・・この本の著者、新井紀子さんが研究開発を主導した「リーディングスキルテスト」の結果に注目が集まり、学校現場やビジネスの現場で話題となっています。いったい現場では何が起きているのでしょうか?前回に引き続き『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』とRST(リーディングスキルテスト)について少し詳しくできるだけわかりやすくご紹介します。後半も長文ですいません。

 

RST と 進学できる高校 について

 

リーディングスキルテストを受ける中学生の子どもたちは、30分のテスト時間の中で、6問を解く子どもから、同じ30分で30問くらいを解いていって、しかも正答率も100パーセント近い子どもまで幅があるそうです。

 

そして、このテストの成績の良い子どもから良い学校に入っていく、という感じだそうです。

 

また、中学受験をして有名進学校に行くような子どもは、小学校5年の段階で、すでに高い正答率を出している可能性があるそうです。

 

読解力が低い理由

 

読解力が低い理由は、現在のところ分かっていません。

※新井紀子教授のツイートから

 

今回の調査は、科目としての国語力を測ったものではありません。教科書も国語と英語は用いていません。「事実について書かれた短文を正確に理解する力」を測っています。国語が得意かどうかと本調査の能力値との間に相関は特にはない、という結果です。また、読書が好きかどうかとも相関はありませんでした。

 

相関がなかったのは、性別・得意な科目不得意な科目・一日の学習時間・スマートフォンの利用時間・読書の好き嫌い(5段階)・好きな本のジャンル・今月読んだ本の冊数・新聞購読の有無・通塾・習い事など多岐にわたります。能力値と意味のある相関があった項目は特に見当たりません。

 

にもかかわらず、進学できる高校の偏差値との相関は0.8です。つまり、生活・読書・学習習慣とは関係ないのに、進学できる高校を決定するような能力値だということです。一方、中学で能力値が上がるという点で知能テストとは違います。

 

問題サンプル

 

その1

 

アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。

 

セルロースは(  )と形が違う。

 

その2

 

Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。

 

Alexandraの愛称は(  )である。

 

その3

 

以下の文を読みなさい

 

 輸出が伸び悩む中でも、和牛が人気の牛肉や、和食ブームを反映した緑茶や日本酒などは好調だ。

 

上記の文が表す内容と以下の文が表す内容は同じか。「同じである」「異なる」のうちから選びなさい。

 

 輸出が伸び悩む中でも、和食ブームを反映した日本酒や緑茶、和牛が人気の牛肉などは好調だ。

 

   「同じである」  「異なる」

 

問題が良くないという意見に対して

※新井紀子教授のツイートから

 

リーディングスキルテストの題材は、「良い文か悪文か」ということで選んでいません。その文が読めないと、生きていく上で不利益を被る可能性が極めて高い、というところから選んでいます。これは文学鑑賞を否定しているわけではなく、ただリーディングスキルテストのスコープ外ということです。

 

法律って「知らなかった」「読めなかった」では免責にはなりません。どんな悪文でも読めないといけないわけです(そういうことになっています)。アパートの賃借契約書もそうです。「この文、あいまい性があるだろう!こんな頭の悪い文章で契約できない!」って破り捨てられません。

 

RST活動を通して目指すもの

 

中学を卒業するまでには、全員が教科書レベルの文章を「読める」ようにしたい!

※新井教授のツイートより

 

個人的には、全国の中学1年生にリーディングスキルテストを無償提供したいと思っています。生徒の読みの状態を正確に把握できれば、「ここに書いてあるでしょ、ちゃんと読んで!」みたいな指導が適切か否か正しく判断できます。(でも、学テに何億もかかっているから・・・科研費じゃ無理・・・)

 

私の夢は、中学1年生希望者全員に無償でリーディングスキルテストを提供することで、その後生きていく上で困らない基礎的読解力を身に着けて中学校を卒業してくれることです。加えて、障碍が理由で読むことが難しい人を早期発見して、支援を行えるようになることです。

 

RST実施組織と活動内容

 

中学卒業時点において、すべての生徒が教科書を正確に読める力をつけていることを目指し、教育に関わる企業・団体などと共同 で産学連携の「教育のための科学研究所」準備協議会を20167月に設置し、以下の活動をすることになっています。

1.生徒が教科書の内容を正確に読み取れる力を測る「RST」を企画・実施し、テスト結果のデータに基づいて「なぜ読めないのか」という理由を分析

2.読解力の高低に関する要因の特定、診断方法の開発等を通じて欠けた部分を補う教育方法を考案し、読解力向上に向けて活動

3.RST」の実施結果に関するデータベース等の作成 および 開発支援

 

参加企業・法人は以下の通りです。

•学校法人高宮学園代々木ゼミナール

•株式会社ベネッセコーポレーション

•東京書籍株式会社

•日本電信電話株式会社

•富士通株式会社(五十音順)

上記の企業・団体に加えて、株式会社野村総合研究所 未来創発センターが協賛しています。