#14

 

 

その時、美霊の頭の中に義母が言った言葉が浮かんだ。 

 

「剣決に極致、森羅万象と呼ばれる境地に達すると

敵だけでなく自然の気運まで使えるという。

本当かどうかは今の時代には分からないだろう。」

 

美霊は歯を食いしばって腰につけていた中間の長さの剣を握った。

そして考えた。

 

『必ずしも敵の力でなくても!一つになれば私の力になる!

自分を信じろ!できる!できるんだ!』

 

美霊は空中で剣を抜刀し、自分の目の下をかすめる水面を切り裂いた。

向かい合って寝そべった水面と美霊を垂直に立てて見ると

透明な敵を斬り下ろす動作に見えた。美しいほどきれいな斬り下ろしだった。

剣と水面が衝突すると、水しぶきが湧き上がって彼女を包み込み

体の回転と共に彼女の時間が止まった。

数千の水滴が空中に透明な星座を描き出した。

美霊は一文字に一動作ずつ、心の中に刻んだ剣訓を叫んだ。

 

「疾」

私の上に爆発する激流、私を拒む世界の暴力を剣と一つになった私の体に受け止める。

 

「風」

風の抵抗、無形の気運さえ私の中の世界と循環させながら私と一体となる。

 

「勁」

渦の回転力、同化された自然に私の感情を加え、何も静ませない暴風を巻き起こす。

 

「草」

人間の意志、その暴風が起こした波紋で外部世界の強圧を打ち破り目を覚ます。

 

美霊が水面を切った後から

回転しながら水平に弾ける水の嵐を引き起こすまでは

水滴が線となり巨大な逆十字を描いたようだった。

その水の嵐で一瞬激流が押し出され、鈴来の体が水面に近づいた。

美霊はそれを逃さなかった。

片手の鉤縄は遠くの岩に、もう片手の鉤縄は鈴来の鉤縄に投げた。

一寸でも投げ間違えたら、水中で揺れる鈴来の腕を貫通してしまう状況だったが

美霊は自分の正確度と冒険を賭けるべき瞬間を確信していた。

 

結果は半分の成功だった。

鈴来は水の外に引き上げられ、激流の外の岩の方に投げられたが

それに全力を尽くした美霊が重心を失い、水の嵐に押し流されたのだった。

美霊は水中で姿勢を整える暇もなく、目の前の滝の下に投げ込まれた。

落下する滝は、高さが半町(約54メートル)以上で

不運にもその下は底の見えない水たまりと突き出た岩でいっぱいだった。

 

「ダメ!ダメ!ああー!」朱葉は悲鳴を上げ、朱里の顔は青ざめた。

 

 

 

 

 

 

https://amzn.asia/d/7l2jQ8V 

(小説「1011」の本編の閲覧や購入はこのリンクから

Amazon  Kindle unlimited 加入者なら今すぐ無料!)

 

ファンの皆さんの応援とレビューは力になります!!