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第一章 

Ⅰ.後継者

 

時は遡り、魔鬼らがくノ一たちを襲う三週間前頃

彼女たちの住む金槍ヶ岳(キンヤリガタケ)には初の秋雨が降った。

薄灰色の煙に見えるほど、細かい霧雨だった。

風に積まれた雨粒はきらめく粒子のように空中を飛び回り

何日も彷徨い群れを成した末

巨大な翼のように上下しながら、不透明な塵を洗い流した。

 

びしょ濡れになった木々は「今だ」と叫ぶように

葉や津液からさわやかな匂いを吹き出した。

その匂いがどれほど濃かったのか

息をする度に肺の中までひんやりとした感じがするほどだった。

 

落葉性針葉樹に覆われた尖った峰はより鮮明になり

夕焼けがその鋭くそびえた絶壁を包む度に

金槍ヶ岳はその名に相応しく黄金のヤリになったようだった。

子供たちは楽しくならざるを得ない季節だった。

 

この日、くノ一住居の四姉妹は

母親に使われる薬材を探すという名目で遠足に出た。

この仲の良い義理の姉妹たちは訓練隊長を少し騙した。

青ヤギ茸が雨の後により鮮明な色を帯びるということは事実だったが

大量に咲いている場所を発見したという話は嘘だった。

そうしたのは、ただ遠いところまで出る許可を得るためだったのだ。

四姉妹の目的地は青雲平原と呼ばれる山中の野原だった。

 

そこは普段は名も知らぬ空色の花で覆われていたが

不思議なことに雨が降った後には

その花が茎まで紫色に変わりながら波打つのだった。 

幼い少女たちには到底見逃せない行事だった。

 

結局、少女たちは青雲平原に到着し、おにぎりと漬け物

そこにおはぎまで持ってきて思いっきり遠足を楽しみ

美しく染まった花も一握りずつ採集網に入れた。

そうやって野原の上を転がっていて

 

ふと、太陽の角度が尋常でないことに気づいた誰かが叫んだのだった。

 

「大変だ!やばい!訓練時間に遅れたらお母さんが怒るよ!」 

 

その叫びの中で彼女たちは、訓練隊長と母親の鬼になった顔を思い出した。

すると全身に鳥肌が立った。

それでやっとあたふたと青ヤギ茸を探しに立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

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