エネルギーと地球環境 (学術俯瞰講義) 西尾 茂文 他

教養学部・総合文化研究科 教養課程 2007 冬学期

Energy and the Earth (Global Focus on Knowledge) Shigefumi Nishio and others

Arts and Sciences, 1st and 2nd, 2007 Winter


シラバス Syllabus

2007年度冬学期講義 「エネルギーと地球環境」

われわれは、太陽系第3惑星である地球に生きている。この地球は、水惑星として生命を育み、その生命が地球そのものをつくりかえ豊かな自然環境を生み出してきた。石炭、石油、天然ガスなど、現代の社会に不可欠であるが枯渇性のストック型資源の蓄積もまた、地球における生命の進化の過程で作られた限りあるものなのである。

一方、20世紀は、科学技術の発展によりさまざまな人工システムが急速に普及した時代であった。航空機や自動車あるいは鉄道に代表される移動システムは、人間の地球上での移動を高速化し、ロケットは人間を月まで運んだ。また人間は、生物による生産活動を必要としない原子力という新しい燃料を得て、未曾有のエネルギーを開放した。半導体デバイスは人間の記憶・演算能力をはるかに超えた道具を生み出し、情報システムはわれわれの視聴覚能力を時空間を越えて拡大させた。その結果これらの科学技術により、利便性に富む輸送網、エネルギー網、あるいは情報網など、今日の巨大な人工環境が築かれたのである。

しかしこの人工環境は、周知のようにストック型資源の枯渇、廃棄物の大量排出、地球規模の気候変動など予想しなかった自然環境への不可逆的影響を与え、それ自身の持続可能性に関する課題を投げかけることになった。今、われわれが遭遇しつつあるこうした課題は、単なる理工学的課題ではなく、「エネルギー安全保障」や「地球温暖化」という言葉が示すように一国や一地域の問題にとどまらない地球規模の政治経済論的あるいは文明論的ともいえる課題となっている。

本講義では、エネルギーと地球環境に関して人類が遭遇している課題について、学術がいかなる視点からいかなる方法により課題解決に取り組んでいるのかを、理学、工学、政治学、経済学の観点から俯瞰する。

We live on the Earth, the 3rd planet of the solar system. The Earth has nurtured life as a watery planet, and life has recreated the Earth into the planet with a rich natural environment. Coal, oil, and natural gas are essential resources for modern societies, but these stock resources made in the course of evolution are exhaustible. On the other hand, the 20th century was the period when various artificial systems had spread rapidly by development of science and technology. Aircraft, car, railway, and other transportation systems sped up traveling on the Earth, and rocket transported humans to the moon. Also, humans acquired unprecedented energy from nuclear power which needs no biological production activity. Semiconductor device gave birth to tools with memory and computing power far higher than humans' capability. Information system extended our audio-visual abilities beyond space-time. Consequently, these technologies builded convenient transportation network, energy network, information network and today's such enormous artificial environments. However, as is generally known, these artificial environments had an irreversible impacts on the natural environment such as depletion of stock resources, mass emission of waste, global climate change, which raised the challenges of sustainability. Now, these issues we are confronting are not just technological problems. Words as "energy security" and "global worming" suggest that these issues are not what only a single country or a region has to handle, but political, economic, and civilizational problems that whole countries on the Earth have to deal with. In this lecture, from viewpoints of science, technology, politics, and economy, let us overview how academia is challenging these energy and environment issues.




≪メモ≫

◆地球は全休的に温暖化しているといえるのか?都市部に限った温暖化ではなかろうか?

・地球は大気等の熱吸収を考えなければ平均気温氷点下18度の惑星であるが、水蒸気が最も放射熱を吸収し、現在の15度~16度の気温が維持されている

・二酸化炭素がそれほど地球温暖化に影響を及ぼしているのだろうか?

◆エネルギー消費とエネルギー保存則の問題

エネルギーを熱エネルギーとして使う場合、エネルギーの質の問題がある為、ヒートカスケーティングは重要 →東京ガスのエコミル(コストの問題)
⇒できるだけ熱エネルギーに変換せずにエネルギーを使う事が望ましい
⇒新たな技術の創出が求められる

◆持続可能とは?

×循環状態・・・物質系では可能性があるが、エネルギー系では熱エネルギーが介在する限り困難

〇定常状態・・・
①人口の安定化(経済レベルの向上が貢献)
②フロー型エネルギー資源の利用
③エネルギー有効率の向上
→世界的にエネルギー有効率の高い日本人でもエネルギーの1/3しか使っておらず2/3は廃棄されている。特に自動車、原子力の発電効率が悪いのが大きな原因

◆持続可能な社会に向けて

・地球環境変動の予測、観測精度をいかに向上させるか(気温のみでなく、水や植生・生態など含む)

・核融合、宇宙太陽光発電あるいは超伝道送電など究極のエネルギーシステムを時間的にいかに位置付けるか

・フロー型(再生可能)エネルギー資源をいかに活用していくか(太陽光や風力のみでなくバイオマス・プランテーション含む)

・エネルギー利用効率をいかに高めていくか(エネルギー貯蔵、超断熱、ビークル、エコ・コミュニティ、ライフスタイルなど含む)

・化石資源の大規模利用を前提とする期間に、化石資源を確保しつつ自然環境と人口環境との共存をいかに図るか(エネルギーセキュリティの確保、気候変動への対応、二酸化炭素分離、回収、貯蔵、格差是正など)

・我が国の発電量の25%を占め53基ある原子力発電をいかに位置づけるか(軽水炉増設のみでなく、軽水炉プルサーマル、FBRよび核燃料サイクル、核拡散防止などを含む)

・中間媒体(二次エネルギー)として水素、電気をいかに位置づけるか(これは輸送形態の将来にも関わる)

・ヒートアイランドなどの都市環境問題にいかに対処するか

⇒4つの制約がある(エネルギー資源やそれを変換するシステムが利用できない制約、あるいはできなくなる制約)

・資源制約・・・ストック型資源については可採年数の限界、フロー型資源について賦存量の限界による

・コスト制約(経済的効率性)・・・資源の利用コストが高いか、高くなることによる

・技術制約・・・資源の利用技術が、安全性、利便性などにより、社会的計画性が十分でないことによる

・環境制約(負担公平性)・・・資源の利用により、大気、海洋、森林、土壌などの自然循環が再生不可能な状態となる事による


⇒一つのエネルギー戦略

▲エネルギーの友好利用率向上を35%⇒50%へ

▲非化石資源利用効率を19%⇒50%へ

▲自給率20%⇒50%へ