(191) 「日本霊異物語 玉藻前」 千秋寺亰介 | Beatha's Bibliothek

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※本の紹介には連番がついています。


今回も、千秋寺京介さんの「日本霊異物語 玉藻前」でございます。

日本霊異物語 玉藻前 (トクマ・ノベルズ)/千秋寺 亰介
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今年最後の本ブログでございますよ。

外伝を、続けて読みました。こちらも面白かったですね。

登場人物の紹介は、前回の本ブログに書いてあるので、

こちらを見て下さいね。↓

http://ameblo.jp/gaelic/entry-11431832563.html

この中には、「宿難(すくな)」「玉藻前(たまものまえ)」「異人」の

3作品が入っております。

「宿難」は、話を読み進めていくと、あ、なるほどねと。

エンディングはちょっと切ない話でしたね。

「玉藻前」は、舞達のすむ大忌部村が大変な事になります。

「異人」は、何て言えばいいんでしょうね、トリッキーな作品です。

どの作品も印象深いんですが、う~ん・・・・。

今回はタイトルにもなっている、「玉藻前」をご紹介しますね。




深夜、阿波山中を松明を持って歩む二人の男女の姿がありました。

彼らが、怨霊師と陰陽師です。怨霊師は名を真名瀬舞といい、

陰陽師は名を安倍北麿といいました。二人は、阿波山中の名もない

小さな寒村にさしかかっていました。二人は、阿波の田舎町で起きた

陰惨な怨霊事件を解決したばかりで、大忌部の隠れ里に戻る途中です。

「北麿!」「何だい?」「本当に討ち洩らした怨霊はいなかったのかしら?」

松明の揺らめく光を受けた舞の横顔は、時として真昼の光の下で見る

よりも、ぞっとするほど美しい時があります。怨霊を封殺した舞の憂いを

秘めた悲しい横顔も、得体の知れない悲哀と壮美さを感じさせます。

特に怨霊をほふった直後に流す一筋の血の涙は、純白の舞の頬を

流れ落ちる際、見る者の全身が弥立つほどの煌きを放ちます。北麿は、

そういう舞の彫りの深い横顔を、幾度となく見て来ました。この日も、

北麿と舞は、六匹の怨霊を葬り去った後でした。「北麿、聞いてる?」

「あ、あ、あれで全てだった」 北麿は、自分の気持ちが舞に悟られ

ないかと思いました。舞には、人の心の中を覗く“他心通”に通じて

いるという噂があったからです。舞は一瞬怪訝な顔をしました。

「北麿?今夜の私、ちょっと変?」 北麿は、どう答えていいか

分かりませんでした。「私も怨霊を狩り取った事は分かっているの。

でもなぜか不安なのよ。うまくは言えないけど、得体の知れない所から

視線を感じる・・・・そんな感じなの」「考え過ぎじゃないのか?」 北麿は、

そう言うと首を傾げました。北麿は、天真爛漫な性格で、細かい事には

あまり拘りませんが、陰陽師である以上、怨霊を見逃す事はありません。

怨霊の気配を察知するのは、陰陽師の最も得意とする事だからです。

「これは理屈じゃないのよ」「では討ち洩らしたと言うのか?」「分からないわ」

舞は、気が立っていました。彼女自身にも、理由が分からないのかも知れ

ません。「体中を細い髪の先で刺されるような、そんな妙な感覚なのよ!」

「それって疳の虫じゃないのか?」 北麿は、口から出た言葉を思わず呑み

込もうとしましたが、もう手遅れのようです。気分を害した舞の様子を見れば、

一目瞭然です。北麿は、怨霊に対しては滅法強いですが、舞にはからっきし

駄目でした。舞とは同じ歳なのに、彼女の前では美男も台無しで、まるで蛇に

睨まれた蛙のようになってしまうのです。「悪かったよ、舞」「知らない!」

舞は、頬をふくらませて横を向きました。どうやら長期戦になりそうです。

北麿は、担いできた笈(おい)を肩からゆっくりと地面に降ろしました。

それが、二人の兼ねての合図でした。舞は、北麿の頭上を飛び越えると、

後ろ腰から抜刀した小剣を構えたまま、真上から笈を全身全霊の力で

刺し貫きました。「ウギャァァァァァァ~!!」 世にも恐ろしい叫び声が笈の中から

したかと思うと、舞は切っ先を笈から一気に引き抜きました。笈は、その勢いで

横倒しになりましたが、まだガタガタと震え動いています。異様な振動が続く

中で、笈の蓋が徐々に開き始めました。するとそこから、小さな影のような

ものがのたうつように這い出して来ました。それは、小さな布袋の置物でした。

「布袋が動いてるわ」 布袋の置物は、六匹の怨霊が十五家族を貪り食べた

時に、陰惨な殺戮現場に転がっていたものでした。北麿が供養の為に持ち

帰ったのですが、実はこれが二人の仕掛けた罠だったのです。布袋の大きさ

は、一尺五寸(約四十五センチ)、ふくよかな腹を突き出し、笑顔を絶やさない

温厚な顔をしていました。それが今や、布袋の顔は醜く歪み、苦しみの中で、

血反吐を吐きながら、悶え苦しんでいます。「引っかかったわね」 舞は布袋の

前に立ちはだかりました。布袋は、血走った目で見上げています。「お前は、

引っ掛けたつもりだろうが、罠に嵌められたのよ!」 そう言うと、舞は微笑を

浮かべました。その間、北麿は、布袋を逃がさぬ位置に陣取りました。

「おまえは泉宗寺の結界の中でも生きられる変異体。だから布袋に憑依した

おまえを結界の外に出し、地脈が最も複雑に交差する剣山まで運んで

来たのよ」 布袋は悶えながらも、舞の顔を恨みの籠った目で睨み続けて

いました。「ここなら、平安時代から多くの人を食い殺してきた“玉藻前”も

討ち取れるわ!」 布袋像に憑依した怨霊は、千年近く何処へ消えていたか

分からなかった怨霊です。「どぼじでぇぇぇ・・・私ぃぃがああぁぁ玉藻前だと

分かっだあぁぁぁ・・・」 脳天を舞に突かれた布袋は、流れ出る血で真っ赤に

染まっていき、もはや、何を言っているのかさえ分かりませんでした。




いつものように、冒頭の部分を少しだけご紹介しました。

さて、これからどうなるのでしょう?

罠に嵌められた玉藻前、これからどうするのでしょう?

舞と北麿は、玉藻前を討ち取る事が出来るのでしょうか?

ご興味のある方は、読んでみて下さいね。