(190) 「怨霊記外伝 日本霊異物語」 千秋寺亰介 | Beatha's Bibliothek

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今回は、千秋寺京介さんの「怨霊記外伝 日本霊異物語」です。

日本霊異物語―怨霊記外伝 (トクマ・ノベルズ)/千秋寺 亰介
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名前の漢字が違いますけど、出てこないのですみません。

「怨霊記」の外伝を読みましたですよ。実は、「怨霊記」は未読。

でも、普通に外伝楽しく読めました。

相変わらず、セリフとかが口語体っぽいです。

読む度に思いますが、感嘆符使うの好きなんですね、きっと。

主人公は、真名瀬舞、怨霊を封じる怨霊師です。この怨霊師は、

陰陽師と組んで、怨霊封じに向かいます。舞と一緒に行動するのは、

陰陽師の安倍北麿です。舞の父親は、怨霊師や陰陽師を総括してる

大忌部(おおいんべ)の大頭です。ま、舞はサラブレッドって事ですね。

舞は、怨霊師であるとともに、神憑りで様々な予言を成す巫女の最首である

大日女(おおひるめ)に使える巫女でもあります。

ま、あんまり書くと、ややこしいのでこの辺りで止めておきますね。

この本の中には、「怨霊島」、「セーマンドーマン」、「水蛭子(ひるこ)」、

「女化」の4編が入っています。どの話も、印象深いですね~。

「怨霊島」では、メインストーリーの裏で、舞の淡い初恋が描かれます。

「セーマンドーマン」は、安倍晴明、芦屋道満の話で、面白い解釈でしたね。

「水蛭子」は、ちょっと切ない話でした。あ、恋愛の切ないではないですが。

「女化」は、舞の幼少の頃の話で、これも切ないですが、とっても良い話でした。

どれを、紹介しようかなぁ。「水蛭子」にしようかな。




舞と北麿は、人に害を成すという一人の老婆の隠れ処へと向かっていました。

老婆は、乱れた白髪の醜悪な形相の持ち主で、人知れず村里へ降りてきては

子を攫い、旅人を待ち構えては優しい声で己の隠れ処へと誘い込むのです。

老婆は、旅人が寝静まったところを見計らって襲いかかり、鋭く砥いだ大鎌で、

旅人の喉首を切り裂き、血が滴る肉を貪り食べるというのです。北麿は、

陰陽師の持つ鋭い感覚と霊視により、人肉を食らう老婆の居所を探し出して

いました。隠れ処は村外れにあり、北麿と舞は共に奥深い孟宗竹の林の前に

立ちました。2人の松明から、時折パチパチと火の粉が飛び跳ねています。

竹藪は、風が通り抜ける度に大きく揺れ、得体の知れない巨大な生き物

のように蠢き、竹の葉がザワザワと音を立て、茎がギシギシと櫓を漕ぐような

音を立てます。既に竹藪の奥は深い闇が覆い、不気味な気配が闇の奥から

漂ってきます。北麿は僧侶のような姿をした上背のある若者で、夜というのに

傘を被り、手に持つ金剛六角棒は月光に映えて赤黒く艶光りします。

北麿は、少し被り物を上げると、舞を見つめて言いました。「舞、間違いなく

老婆はこの中にいるよ!」「怨霊と思っていいのね?」「三日ごとに人を食らう

のは、怨霊に憑依された人間しかいない」「そうね・・・・」 舞は頷きました。

朱色袴で巫女姿の舞は、長い髪の毛を揺らしながら、深い竹藪の奥をじっと

見据えています。その瞳は、湖の底のように深い緑色をしています。普通の

巫女と舞の違うところと言えば、舞は短い革ブーツを履いている事でしょう。

それだけでなく、舞は腰の後ろには不思議な形をした小剣を隠し持っています。

その小剣を使い、今まで数多くの怨霊を命がけの闘いの中で封じ取ってきた

のです。松明の揺れる光を顔に受けながら、北麿は再び舞に言いました。

「こうして立っていると怨霊の臭いが鼻を突く」「・・・・臭い?」 北麿に限らず、

全ての陰陽師は、怨霊の居所を的確に探り当てるばかりか、瞬時に怨霊の

正体を見抜いてしまいます。陰陽師ならではの特殊感覚とも言えますが、

研ぎ澄まされた鋭敏な五感と、霊感ともいえる第六感が常人とは桁違いな

ほど優れているからなのです。「血の臭いだ」「なるほど・・・それなら分かる

気がする」 舞は、北麿の言葉に頷きました。怨霊に憑依された人間は、

血腥い粘着質的な呪縛の空気で覆われており、陰陽師はそれを敏感に

感じ取るのです。「そろそろ行くぞ!」 北麿は松明を片手に孟宗竹が鬱蒼と

茂る竹林の中へ踏み込もうとしました。その時、舞は何かに気づき、腕を

上げて北麿を押し止めました。「どうした舞?」「竹藪と村里を結ぶ場所は

ここだけ?」「ああ、ここでしか竹藪は道と接していない」 村里へ至る道は、

竹藪と少し並行して走った後、大きく湾曲しながら逆方向の山へと消えて

いく為、道との接点はわずかに十間(約十八メートル)しかなく、その左には

古い池、右には崖が迫り出しています。「もし怨霊が気づいて竹藪から

逃げるとしたら、ここから道に出るしかないわね?」「ああ、そうだ」 北麿の

言葉を聞いた後、舞は暫くの間じっと何かを考えていました。北麿は、舞が

何を考えているのか分かりませんでした。その内に舞は、北麿に向かって

口を開きました。「北麿、万が一の時なんだけど、私が怨霊を取り逃した

時の為に、ここにいてほしいの!」「何を言っているんだ。竹藪に結界を

張れば、怨霊を外に逃すことはない」 その時、舞は松明を遠くに翳し、

揺らめく松明の光りが竹藪の奥を明るく照らし出しました。すると、そこに

竹の葉に覆われた小さな盛り土が見えました。北麿が目を凝らすと、

盛り土の上に、朽ち果てた小さな祠のような物が見えます。「なんだ

あれは、祠か?」 北麿が近づいてよく見ると、一尺四方(約三十センチ)

の小さな祠で、お神酒を注ぐ為と思われる皿が割れたまま泥に埋もれて

います。手入れがされていない所を見ると、既に村人から忘れ去られ

ているようです。「舞、これは稲荷の祠ではない!」「ええ、ここが境内

ではないから、末社や摂社でもないみたいね」 北麿は、首を傾げました。

「そうね、土着神道の名残みたいだけど、万が一・・・・」「万が一?」

「ええ、こういう名も知れぬ祠には危険な物も多いの。大日女様から

聞いた事がある」 舞の言葉に、北麿は一瞬不安な顔をしました。

大日女とは大忌部村を霊的に支配する老女の事で、様々な神憑りを

行う巫女です。舞を怨霊師に召したのも、大日女でした。「危険な祠とは

どういう意味だ?」「大日女様が言うには、名も知れぬ朽ち果てた祠は、

古の原始神道の名残であり、大昔にそこに地脈があった跡の可能性

がある・・・・と」「地脈の跡?」「今では、地脈がどこかに移ってもいても、

迂闊に結界を張ると再び地脈が噴き出して、蘇るかも知れぬと」

地脈とは、大地の底を走る未知の力の事です。大地には力の流れる

道に沿った要の場所があり、地脈の噴出口になっています。そこは、大地の

霊的な力が噴き出す要であり、神社や仏閣を置き、結界石を定めて地脈の

力を得ると共に、力の暴走を防いで均衝を図ったのです。そこを境と言い、

内側を境内と呼びました。たとえ今は眠っている地脈でも、その規模が

不明である以上、無闇に結界を張ると、とんでもない事態も起きかね

ないのです。




冒頭の部分を、少しだけご紹介しました。

さて、この祠は、本当に危険なのでしょうか?

結界を張ると地脈の暴走を起こすかも知れない状況で、

舞と北麿はどう決断して、行動するのでしょう?

そして、怨霊との対決は??

ご興味のある方は、読んでみて下さいね。