(99) 続巷説百物語 | Beatha's Bibliothek

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メディカルハーブやアロマの事、       

様々な本の紹介など色んな事書いてます。
                         
※本の紹介には連番がついています。

今回は、京極夏彦さんの「続巷説百物語」です。


前回ご紹介したものの、続編になります。


本と一緒に添付しておりました、ドラマDVDの原作は、


こちらに収録されていますので、もう一度添付して


おきますね。



山岡百介が、武蔵国多摩郡八王子千人町に呼ばれたのは、


八月の半ば、汗が滴るような暑い日の早朝でした。百介は、


諸国を渡り歩いて、怪談奇談の類を聞き集める事を生き甲斐と


している酔狂な男で、当然旅慣れてはいるのですが、旅慣れて


いるが故に、逆に八王子辺りには行った事がありませんでした。


百介は、武士ではありませんから、普通は痩せ我慢など


しませんし、暑い時は暑いなりの格好をします。ですが、今回は


招かれている身であるから、それも叶いません。八王子近辺


には、俗に八王子千人同心と呼ばれる郷士の集団が住んで


います。半農の武士ではありますが、軍事教練を欠かさず


行っていると聞きます。八王子千人同心の組頭には、知識人


も多いという話です。山岡軍八郎もその例の漏れず、最新の


医学事情に通じた博識の、田舎同心とは思えぬ人物です。


百介を呼びだしたのは、この軍八郎でした。使いの者の


書状には、‘相談したき事あり、大至急おいで願いたし’と


書かれていました。山岡軍八郎は、百介の兄なのです。


百介の心中も、穏やかではありません。茅葺の陣屋の


ような建物に到着すると、軍八郎が出てきました。百介の


姿を認めると、よく来てくれたと、頭を下げました。「いったい


どうなされたのです?」、百介は尋ねました。「見て欲しい


屍体ある。あまり見たいものではなかろうが、まぁ変死


である」、軍八郎は言いました。「しかし兄上、医学に明るい


兄上に判じられぬようなものが、私などの目に判る訳も


ないではありませぬか」と、百介が言うと、そうとも言い


切れぬぞと言い、「死因は・・・一目瞭然なのだ。まぁ


見てくれ」、筵の下には、立派な身なりの侍が横たわって


いました。着衣に乱れは一切ありませんし、もちろん、


刀傷も血痕もありませんでした。しかし、「こ・・・・これは」


百介は目を瞠りました。侍の骸は、だらしなく口を開けて


おり、眼も大きく見開かれ、驚愕の表情、あるいは、恐怖の


表情を浮かべていました。それより問題なのは、その額


でした。侍の額には、石くれが突き刺さっていたのです。


どう見ても、そこら辺に転がっているような石です。


「拙者の同役の、浜田殿だ。他に外傷はないのだ。だから


間違いなく、この小石が死因となったのであろう。しかし、


な、百介、これは・・・どのようにしたら・・・その・・・。こう


なるのだ?」 確かに、奇態なのです。思い切り額に石を


ぶつけられれば怪我はするでしょうし、打ち所が悪ければ


死に至る事もあるでしょう。しかし、例え、どれだけ強く投げ


つけたところで、突き刺さる事はありません。しかも、大石


ではなく、小石です。軍八郎は、投石機のようなものを


使ったのではないかと思ったのだが、それを使ったとしても


こうなるとは考えにくいと言うのです。百介が、火薬はどうか、


と尋ねると、遺体が見つかった場所に、火薬の痕跡は


なかったとの事でした。「火薬で石を砕く所を見た事がある。


飛び散った時に近くにいれば、このようなことにもなろうかと


思う。しかし、これは、砕けた石ではない。丸くなっている


であろう」、指摘の通りだと、百介は思いました。「ここに、突き


刺さっているのが、石であるという事を除いて、この状態に


一番近い状況は、近距離から矢を射掛けたという事になる


のでしょうか?」「そうだな。この石が矢じりであったなら、正に


矢で射た状態なのであろうな。突如弓を番えた賊が眼前に


躍り出て、驚いている間に眉間目掛けて射掛けてきたなら、


このような具合になるのであろうが」 だらしなく口を開けた


骸の眉間に、もしも矢が突き立っていたならば、確かに


それは、少なくとも今よりは、遙かに自然な形なのだろうと


百介は思いました。しかし、その矢があるべき部分には、


丸い小石があるばかりなのです。



冒頭の部分を、ご紹介しました。


百介は、この骸の謎を解く事ができるのでしょうか?


いったい、犯人は誰なのでしょうか?


ご興味のある方は、読んでみて下さいね。


次回は、京極夏彦さんの「後巷説百物語」を


ご案内します。







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