(98) 巷説百物語 | Beatha's Bibliothek

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メディカルハーブやアロマの事、       

様々な本の紹介など色んな事書いてます。
                         
※本の紹介には連番がついています。

今回は、京極夏彦さんの「巷説百物語」です。


このシリーズ、大好きです。特に、又市が音譜


直木賞も受賞しましたし、有名な作品ですよね。


WOWOWでドラマ化もされましたし、見た方も


いらっしゃるかも??ですね。又市役の渡部篤郎さん、


すごくかっこ良かったな。



越後の国に、枝折峠という難所があります。その峠より


更に奥、山深い獣径をひたすら進む、網代笠の僧の姿が


ありました。この僧は、円海といいます。折からの激しい雨が、


山間の谷川をどうどうと、溢れさせています。円海は、


立ち竦みました。澄んだ清流だった小川も、今は泥土や


砂利が混じり、最早濁流としか言いようがありませんでした。


険しい山道で、引き返せば山の中で夜を迎える事になります。


今更、戻る事も出来ませんし、渡るしかありません。渡りさえ


すれば、寺までの道のりは残り僅かです。峠を迂回すれば、


四日はかかる道のりですが、この間道を行くなら、一日で


すみます。日暮れ前に川を突っ切れば、深夜には山門を


潜れるであろうと、円海は思っていたのです。取り分け先を


急ぐ旅ではなかったのだから、無難な道を行くべきだったのです。


残る手は、一つしかありませんでした。‘確か、上流に古びた


丸木橋らしきものがあったはず。そこまでなら、日暮れ前に


着ける’、円海は、重い脚を懸命に振り上げて、上流へと


進みました。風は凪いでいますが、大粒の雨です。やがて、


笠の目にも、水が滲みてきました。“しょき”、異質な音が


しました。無理に顔を上げると、目の前に男が立っていました。


衣は純白で、坊主頭は白木綿で、行者包みにしています。


修験者か、巡礼か、物乞い札売りの類でしょう。男は大声で、


言いました。「この先は、お止めなせェ。一本しかねえ橋も


朽ちてたようで、流されちまったんでサァ。雨宿りでも


しなくっちゃ、お互いここで御仕舞ですぜ。このまンま、


うンと下手に下った川岸に、粗末な小屋が建っておりやす。


やつがれは、そこに行くところだ。ま、御坊のお好きになさると


いい」 そう言われれば、小屋があったように思います。男は、


円海の返事を待たずに、円海を通り越し、しっかりとした足取りで


下流へと向かいました。男の言う通り、橋が流されてしまったの


なら、これ以上の行軍は、命取りになります。男の助言に従った


方が良いと、急いで川筋を下りました。男の姿は、もう見えません


でした。‘果たして、小屋に辿り着けるのか’、濁流のどうどうという


音に誘われるように進みました。その時、ぬるり、と足が滑り


ました。苔を、踏んでしまったのです。円海は、大きく前にのめり、


結局思い切り尻もちをつきました。‘ここは、この場所は、大きな


一枚岩。鬼の・・・洗濯板か’、そう呼ばれている場所でした。


円海は、脱力して、暫く座り込んでしまいました。雨を媒介として、


円海は、山や大気と一体化します。南無妙法蓮華経南無妙法蓮


華経。円海は、ふいに我に帰り、恐怖心に駆られ立ち上がり


ました。円海は、無心で小屋へ向かいました。その先に、小屋は


ありました。迷わず戸口に駆け寄り、戸を開けて身体を翻し、


力任せに戸を閉めました。ゆるりと振り向いて、予想外の多くの


視線に、一瞬怯みました。囲炉裏を巡って、十人程の男女が


車座になって座っていました。男は、円海を見つめたまま、


にんまりと微笑みました。「おいでなさいやしたね・・・・」、男は、


そう言ってもう一度笑いました。



冒頭の部分を、ご紹介しました。


円海は、これからどうなるのでしょう?


男は、いったい何者なのでしょう?


ご興味のある方は、読んでみて下さいね。


次回は、京極夏彦さんの「続巷説百物語」を


御案内します。



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