古典芸能の世界にとどまらず、現代劇や映画、テレビなどで縦横の活躍を見せる狂言師?野村萬斎氏。2013(平成25)年6月には、父、野村万作氏と2代続けてベスト?ファーザー賞を受賞。3児の父であり、中学2年生の長男の師でもある萬斎氏に、「大人になるために必要なこと」について伺った。
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今の時代は情報も選択肢も多すぎ、目標や進路を選べと言われて、途方に暮れている子どもも多いと思います。自分のアイデンティティーをいったいどこに置くべきなのか–便利さゆえに、自分が何に飢えているのかわからないのです。
しかも、今は自分が欲しい情報だけを検索して、無制限に見ることができます。情報を摂取してばかりだと、データはストックされますが、自分からは何も発信しなくなってしまいがちです。時にはあえて情報から離れ、自分の常識が通用しない未知の世界に触れることで、自分の立ち位置を確認することも大切なのではないでしょうか。
制約があるからこそ自由がある、基本の先に個性があるというのが、僕が狂言から学んだことでした。中央教育審議会で「生きていくための基本が『教養』であるべき。世の中に出る前に、物事の思考の仕方や人との接し方などを正しくプログラミングする。それなしに、いきなり個性と言っても始まらない」などと論じたこともあります。しかし、やはり自分の子育てでは迷うことばかりですね。これだけ多様で複雑化した世界で、何を「基本」とすべきなのでしょうか。
唯一言えることは、口で言うより「やってみせる」のが重要だということです。親の姿を子どもは見ていますし、親が揺らげば子どもも揺らぐ。親自身が、なんらかの信念を持って生きていくしかないと思います。
僕自身も、揺らぐ瞬間は多々あるけれど、舞台の上では命を燃やしています。命が燃えているところをお客さんに見てもらってやっと、舞台で存在できる。それが生きること。僕は生きるための基本を父に教わることができたのです。それは幸せなことだったなと、今になって思えるようになりました。