はると…はると…
まぶしい光の中僕を呼ぶ声が聞こえる…
それは懐かしい誰よりも愛おしいひとの声
振り向くと木立の中からヒョイと姿を現しここよ!と笑ってみせる
僕は手を伸ばして また隠れてたなと笑う
はるとってほ~んと見つけるの下手
僕に駆け寄り見上げながらちょっと悪戯っぽく唇を尖らせた
仕方ないだろ、方向音痴なんだから…そろそろ帰るか
はると…帰るって何処に?
抱いていたはずの肩がそこにない
僕は慌てて捜しまわる ひかる!何処だ!何処にいる!
辺りがまぶしい…まぶし過ぎてひかるを探せない…
桜井さん、おはようございます
カーテンを開けて微笑む看護師さんの声で目を覚ました
ベッドの中繋がれたチューブと医療機器
掠れぎみの声で おはようございますと返したら気分はどうですか?と訊かれた
いつもと変わらないです
痛みもないし、悪い気分ではないです
お薬効いてるんですね良かったです言いながら
看護師さんは体温を計り脈と血圧計を診てカルテに書き込み部屋を出て行った
窓から差し込む太陽の光は夏から秋に変わろうとしている
何処までも青い空には雲ひとつない
僕はさっき見た目夢を思い返す
また一番幸せな頃の夢を見てしまった…
ひかるがいつも笑っていて僕の側にいて僕との未来を信じきっていたあの頃…
僕たちは3年前の冬に出逢った
珍しく東京に大雪が降り交通網がマヒした日
「電車来ねぇじゃん!山手線て5分おきにくるんじゃねぇのかよ」岡山から久しぶりに上京してきた恭介(悪友、クサレ縁)が僕に向かって文句を言う
「今日は雪の予報だって前から言ってただろ?
それを俺は晴れ男だって威張って来て文句言うなよ」
「おめぇが雨男だからだよ!前に来たら台風だったしな
それも東京直撃でよ 予報じゃ逸れますって言ってたのに」
「いや、それ逆にお前が呼び込んだ説あるぞ」
「いーんや、はると君、忘れちゃいないかい?
あの日、君は来る予定じゃなかったんだよ
仕事で栃木に行ってるはずだったんだ
それが前日に相手がキャンセルになったとかで急に仲間に入ったんだよ
その途端、台風が進路変えたんだ 気象庁もびっくりさ
」
「あ、あれはたまたま偶然だろが
」
「だもんで、チャオビなんてもうあいつ呼ぶな
って喚いたんだぞ」
チャオビも中学生からの悪友 一番口が悪い
「うるっせぇな!はいはい、俺が悪うござんした」
「見ろよこの雪…あ~あ、新幹線停まっちゃったよ 俺、今日帰れないからお前ん家泊めろ」
スマホの速報見ながら恭介が恨めしげに僕を見た
「東横線も停まっちゃったよ」笑いながら僕が野宿だなと言うと
「ざけんな寒くて死んじまうだろ!」と僕の肩を突いた
いつもなら突かれても平気なのが雪が凍り始めてて足を滑らせた
転びかけた僕の足が後ろにいた人の足を踏んでしまった
「痛い!」しゃがみ込んだ女性がひかるだった
「あ!すみません!大丈夫ですか?」
踏まれた足を摩りながらいった~いと小声で呻いていた
僕のほぼ全体重が足に乗ったのだから痛くないわけがない
直ぐそこに外科のクリニックが見えた
「肩貸します、あそこのクリニックに行きましょう」
「歩けます 大丈夫です」
「いやしかし…」
「本当に診て貰った方がいいですよ」恭介が僕の荷物を受け取り彼女に言った
実際は僕の身長とひかるの身長差があって彼女が僕の腰を掴み、僕は彼女の肩を抱きながらながら歩いたのだが
「打撲、全治10日間だねぇ 今日明日は湿布貼って動かさない事」
少し白髪混じりの髪を掻きながら医師が言った
「踏み場所が悪かったら骨折してたかもしれない 人混みの中でふざけないように」叱られてしまった
本当にその通りで僕は彼女に平謝りした
治療を終えて費用を支払ってる間に恭介が外でタクシーを拾って待っていた
僕は彼女に名刺を渡し、痛みが酷かったら明日別の病院に付き添うので連絡くださいと告げた
タクシーの運転手さんには雪道で混んでいることを計算にいれて少し多めの金額を渡した
そこまでしなくていいと彼女は言ったが申し訳なくて…
走り去る車を見送り「恭介😡お前治療費半分もてよ👌」と右手を出したら握手してきやがった
あんのやろ
その後、彼女からの連絡は来なかった
大丈夫だったのかなと心配だったが、
やはり気が動転してたのだろう僕は彼女の連絡先を聞いてなかった
あくる日帰った恭介からは馬鹿!ドジ!と散々にけなされたが、連絡して来ないってのは大丈夫だったんじゃないか?と慰めてもくれた
またそのうち休み取れたらそっちに行くからよ
嵐用のレインコート用意してさ
じゃあなと電話切る際に言われてクソが💢と呟いてしまった
あいつの事だ、本気で雨具しっかり用意して来るに決まってる
チャオビにしても、(チャオビ本名和哉、奴は柔道をやっていて中学生で2段を取った。中学生の2段は黒帯でなく、茶帯なのでそのままあだ名になった)
サンジにしても(サンジ、あだ名の通りアニメワンピースのサンジみたいにくそ旨い料理をつくるからそれが由来→本名は諒太)
シュケにしても(シュケの由来は、恭介と名前が同じなのだが、滑舌が悪く、すけの発音がシュケと聞こえるので…)僕と遊ぶ時は必ず折り畳み傘を持参しやがる
雨なんか降らねーよ!こんないい天気で💢と言ったらゲリラ豪雨に降られた😭
偶然もここまできたら桜井春人には雨雲がついていると言われてあいつらは僕を某電気メーカーのマスコットぴちょんと呼ぶ
あれからひと月程して仕事をしてたら昼近くに内線電話で「桜井さんにお客様がいらしてます」と受付から呼び出された
誰だろうと思い階下に降りて行くとひかるがいた
僕は思わず走り寄り「心配してました!大丈夫でしたか?」と聞いた
ひかるは笑いながら、「かえってご迷惑かけたみたいですみませんでした。ちゃんと治ったので心配しないでください」と笑った
受付の女の子たちが興味深そうに見ていたが
かまわず僕は「あ、ちょうどお昼ですから、食事に行きましょう!」とひかるを誘った
ひかるも笑顔ではい
と応えた
近くのレストランに入りひかると向き合い座る
ひかるは、封筒を差し出して
「タクシーの運転手さんが、いくら余ったらチップにしても良いって言われたけどこんなには多すぎるから、会うときに返してくださいと渡されたんです」
「でも、雪道の運転大変だったろうし、クリニックの前で待ってて貰ったし」
ひかるはちょっと困った顔して「預かって来たし、とにかくお返ししますね」と僕の前に封筒を差し出した
「あ、そうですよね 困りますよね
わかりました いただきます」
ウェイターさんが注文を訊きに来て僕らはランチセットを頼んだ
「お飲みものは?」訊かれて2人ともアイスティを頼んだ
ウェイターさんが去ったあと、「紅茶好きなんですか?」と訊いてみた
「う~ん、さほど😊でも、今日は何気に紅茶の気分なので…桜井さんは?」
「ダージリンの香りが好きなんですよ
実は父親がイギリス生まれなので、そのせいかも」
「え?桜井さんてハーフなんですか?」
「いえ、バリバリ日本人です
祖父が仕事でイギリスにいて、そこで父親が生まれたってだけです😊」
「な…ちょっとした詐欺じゃない?」ひかるが楽しそうに笑った😆
「まあ、僕は立派な詐欺師になれますかねぇ」僕も笑った😄
食事が終わるまで僕らはいろいろ話した
彼女の仕事がウェディングプランナーだってことや(もちろんその前に名前が宮前ひかるってことも)故郷が福島だってこと、僕は神奈川で生まれ育ったことなど
「この間のお友達、お仕事仲間ですか?」
「あ?あいつは中学から大学まで一緒の悪友
Vシネマって呼ばれてます、人相最悪だから😁
今、岡山の会社に就職して休み貰ってはこっちに帰ってくるんだ 寂しいよ~って」
「面白い人ですね 足、治らなかったら一生こいつが面倒みますから遠慮なく慰謝料取ってくださいって言ってたんですよ」
「また来月の連休にこっちに来ますよ
会いますか?」
「う~ん、遠慮しちゃおうかな?ちょっと楽しそうだけど…」
昼休みの1時間はあっと言う間に過ぎてレストランを出た所で彼女とは別れた
「また、ご飯でも一緒にしましょう
連絡しても良いですか?」
彼女は「はい、待ってますね」と微笑み手を振りながら駅へと歩いて行く
見えなくなるまで見送って仕事へと帰る
午後からの仕事が少しも嫌にならなかったのはもちろん彼女の笑顔の影響の他ならなかった
夜、恭介から連絡来て彼女と会ったことを伝えたら俺がキューピッドだからな!だとかぬかしたのでキューピッドは、頭だけにしときなと言い返した(岡山に行ってから営業で苦労してるとかで薄毛になったと泣いていた)
俺が会いたがってるって絶対呼べ![ムキー](https://stat100.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char3/009.png)
連休は忙しいみたいだから無理じゃないか?
俺、そっちに帰りたい~😭またハゲた![えーん](https://stat100.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char3/018.png)
お前爺ちゃんツルッパゲだからな気をつけろよ
悔しい~!チャオビなんてまた新しい彼女つくってた!
そう呟くように言ってあいつは電話を切った
あんまり長くはあっちにいれないかもしれないなと僕は思った