彼は魔王の子として生まれた。
生まれた時から並の魔物よりも圧倒的に力も魔力も強かった。
故に今の魔王のもとについて魔王としての振る舞いを学ぶことに誰も異論はなかった。
彼も最初はなぜ人を滅ぼさないのか不思議に思っていた。
魔王は言った。
「我々は人を憎んでいるわけではない。
全てのいきものの繁栄のために、人と対立することになってしまっているだけだ。
人の王はどう思っているのかは分からんが。
魔物達はスライムからドラゴンまで皆お互いを尊重しあって生きている。
人をみてみよ。
彼らは肌の色の違いで殺し合い、信じるものの違いで殺しあう。
彼らには技術を積み重ねる知恵があるが、それはまだ外宇宙に出て行くには未熟なのだ。
人は欲望を抑えられない。
個の欲は小さくとも彼らの数ほど積み上がれば大変な量になる。
そして一部が決壊した時そのしわ寄せは自然を破壊することに向かうのだ。
だから我々魔物はそれに気付かれないように妨害しなくてはならない。
決して組織だっていることをバレることなく、皆が全ての種族のために。
人は彼らだけが知恵を持っていると思っているがそんなことはない。
この魔王城を見てみよ。
これは全て魔物たちが作り上げたものだ。
我々はあえて、自然と調和していく道を選んでいるのだ。
なぜ勇者が生まれた時に、一番強大な力を持つ王が直接殺しに行かないのか。
それは4天王たちとの接触を経て、彼らがどう動くのか?そして世界を任せるのにふさわしいのか?さらに最終的に全てのいきものたちを尊重しあった世界を目指せるのかを見極めるためだ。
我々魔物は人を憎んでいるわけではないのだ。
来るべき日に備えているのだ。」
そういった魔王のもとに何度か勇者が現れた。
しかし、どの勇者にも王の願いは届かなかったようだ。
あるとき、勇者が倒された直後に魔王のもとに勇者達を導いていた賢者が訪れていることをしった。
こっそり聞き耳をたててみると賢者は言った。
「今回の勇者もダメだったな。魔王よ、すまぬ。」
魔王の子はふぅ、と溜息をつき「世界は深いな…」と呟いた。
そして彼はまた勉学に励む。
幸い魔族の寿命は長い。