サバンナでライオンになりたかった鹿さんは


もうライオンになりたいとは思うことはありませんでした。



相変わらず鹿さんの周りはライオンに食べられる事は全く無く


特別なグループにも見えます。


これを面白おかしく言いながらも入る事が出来ない草食動物たちを尻目に


さらに楽しく平和に過ごせる事を日々話し合いながら、


時には鳥さんの提案を取り入れたり、


キリンさんをいかに楽させようかなど隔たり無く対等な輪が広がっています。


ある時東京の有名な動物園の園長がサバンナを訪れました。


まず目に付いたのは鹿さんでした。


どう考えても理解できない筋肉美


そしてライオンには無縁の集団に目を奪われました。


園長はしばらく視察し行動する事にしました。


それは鹿さんへの直談判でした。


「東京の動物園に来てくれませんか?」


「もちろん三食風呂付の個室をご用意いたします」


との事。


鹿さんは悩みました。


そして仲間達に相談した所、


「鹿さんが居なくなる事は残念だけれど、僕達はもう大丈夫!」


「鹿さんはやりたい事をやってみな!」


との励ましの言葉から動物園に行く事を決心しました。


鹿さんはちょっと特別な気分になりながらも


サバンナの経験を胸に気を引きしめていました。


間もなく特別機で東京へ渡る事となりました。


それは綺麗な部屋でサバンナを小さくしたような快適なスペースに気を良くし、


ひと通り歩いてみました。


すると隣に見覚えのある顔があります。


そうです以前、仲の良かったライオンさんです。


ライオンさんもスカウトされていたようです。


ライオンさんは鹿さんに対し


「裏切り者!お前が裏切ったお陰で俺たちはバラバラになったよ!」


との凄い剣幕です。


鹿さんは少々気まずくもあり、恐ろしさも感じましたが、


「お前なんかに食われてたまるか!」


「おれは鹿なんだよ!」


と言い放ちました。


ライオンは


「何だと!世話になった事を忘れやがっって!この恩知らずの裏切り者!」


「いつでも食ってやるから覚悟しておけ!」


と言いました。


鹿さんは相手にしないようにライオンさんとは反対側にいつも居るようになりました。


その場所は動物園の来場者からはちっと見にくい陰になる場所でもありました。


それでもライオンさんは毎日鹿さんを罵り、威嚇し続けました。


そんな事でも命には全く関わらない事を知っている鹿さんは、


「お前なんかいくら吼えても怖くないよ!」


「来れるものなら来てみろよ!」


といつも言い返していました。


それも数週間のやり取りとなりました。


どちらも姿かたちは鹿とライオンでも、


動物園にいるのなら全く同じである事に気付いてきたのです。


いくら牙を剝き遠吠えを揚げても誰も怖がりもしませんし、


体躯とばかりのライオンさん。


鹿さんと言えば、確かにライオンなどからの危険は無いし


食料も決まった時間に出してもらえるが空は狭いし


日々寝転がっている時間がほとんど・・・。


横を見ればライオンさんも吼える事すら意味の無い行為と悟っています。


「なんだこりゃ・・・。」


いつの間にか狭い空を見上げる日々。


遠いサバンナの仲間と楽しくも毎日が刺激でいっぱいだった時間を思い出すばかり。


ライオンさんといえば確かに鹿さんによって変化したサバンナの状況も


今思えば自業自得だったし、鹿さんからの恩恵も有難い過去の記憶と思い返していました。


いつの間にかライオンさんは吼える事を忘れ筋力の衰えを受け止めていました。


鹿さんと言えば蹄は伸び、草の味もみんな同じに感じていました。


ある時鹿さんは


「ライオンさん俺を食べてくれないか!」


と言いました。


なんでそのような言葉が出たのか自分でも分からなかったのですが、


自然と出た言葉がそれだったのです。


するとライオンさんは


「今まですまなかったなぁ~。鹿さんの存在が有難かった事に今は気付いちまった!」


となんか、らしくない回答です。


いつの間にか両者は自分の足元が固まっていない事に気付いていたのです。


「園長にサバンナに戻りたいと言ってみようかなぁ~」


と鹿さんからふいに言葉が漏れました。


ライオンさんも


「そうだなぁ~実は俺も同じ事を考えていたよ」って。


二人は一緒に相談してみる事にしました。


すると園長は


「よくわかった!鹿さんにしても陰に隠れて元気が無かったし、ライオンさんもサバンナの迫力が全く感じられなくなっていたんだ!」


「お二人には悪い事をしたと悩んでいたんだ。」


「でも一度野生を出てしまった動物には野生は厳し過ぎるよ!」


と本当に心ある回答に二人は涙が溢れて来ました。






少し時間を置いて園長は、


「動物園でも残ってくれるなら最後まで責任を持つけど、それでもサバンナに帰る?」


と・・・。



瞬時に二人は


「ハイ!帰りたいです!」


と即答でした。


それから数週間後、二人は懐かしいサバンナの地に居ました。


懐かしい臭い、懐かしい風、懐かしい仲間に、


何一つ変わらない時間・・・。



二人は


「これからも昔のようによろしく!」


と握手をし互いの仲間の所に帰って行きました。


二人は昔のようには戻れないことを知っています。


もしかしたら明日は生きられないかもしれない事も知っています。


それでも自分の足で立ち、自らの感性で今を決断し、


それが自分なんだと・・・。



それから数年後、


ライオンさんは家族の力を借り、


動物園とほぼ変わらない生き方もあるんだと思わせるくらいに


怠けた時間を過ごしている逞しさ・・・(笑)





鹿さんは相変わらず空を見ています。


空では鳥さんが合図の旋回をしています。


キリンさんからの合図も以前にも増して無駄の無い的確なものとなっています。



筋力も大方回復し、蹄も伸び過ぎる事もありません。



鹿とは如何なる存在か、鹿としての可能性はと、


過去の経験を胸に相変わらずの日々を送っています。


がんばれ鹿さん!




これで鹿さん~動物園編~は終了となります。


決して美容師とは重ねないでくださいな。



それでもね自由だから。



つまりは何でも良い。




あくまでも拙の感想。



ようは落とし所の話。




またね。