「また作ってるんかい」

今回で3回目になるだろうか。近所の人に酒粕を貰ってからにわかにマイブームとなっている甘酒作りだ。

先ほどの言葉は母親から。世代からいっても、余計に何かと皮肉な物言いをするのは避けられないことをすっかり悟っている私はここでもスルーだった。

そういうわけだから、作り方などを彼女に聞けばモメることが必至なので、某動画配信サイトが役に立った。本当にああいったものは助かるし、とてもいい時代になったものだ。ま、人に聞かなくてもよくなったというのはいいことなんだかどうなんだか。

お湯に酒粕を溶いてひと煮立ち。火を止めて、お砂糖とひとつまみのお塩を入れるべく、お皿に盛ってある白い山を意識した。

お砂糖を見ると父親のことを思い出す。仕事が目一杯でテレビを見る趣味もなかった彼は、独身生活が長かったせいかかなり家庭的で、日曜の午前中に台所に立つことにも抵抗はなかったようだ。

ガスコンロに取手の付いた網を置いて食パンを一枚焼く。こんがり焼けたところでいつもスプーンでお砂糖をそのままガリガリと塗って食べるのが好きだった。戦時中に生まれた父親にとってはお砂糖がごちそうだったのだろう。

寒い台所に立っていると、よりしんみりとしたカンジになってきた。昨日は一時的に雪の舞うお天気だった。今日は朝から晴れて風もなく、先ほどから回している洗濯機もそろそろ終わりそうだ。

家庭的なトコがやっぱりよく似ている私。父親から貰った古い湯呑みに甘酒を注ぐと、窓の外からは鳥の鳴き声が。「上手く出来たね」と言ってくれているといいのだが。息子が甘酒を作っているなんて、父親は喜ぶかな? 今日は仏壇に供えてみようか。私の心は前を向いていた。

(了)