一昨年のリーマンショックを経て急激に落ち込んでいた国内新車販売実績が、この10カ月の間でようやくショック前の水準を回復した。

 ただ、エコカー減税など政府による下支え措置が効いているのは明白で、回復そのものに力強さはみてとれない。クルマ好きを自認する筆者にとって自動車をめぐる各種のニュースは要注目事項だ。が、最近、これらを伝える自動車専門のジャーナリストやフリーライターに活力が見出せない。クルマをめぐるニュース発信者の現状を分析した。

●アウトバーンの怪

 「あれは明らかに設計段階のミス。しかし、真相を伝えることはできなかった」――。

 数年前、国内の某大手自動車が目玉商品である高級タイプの新車発売を前に、複数の自動車専門のジャーナリストやライターを集め、ドイツで試乗会を実施した。同国の高速道路「アウトバーン」の速度無制限区間で目玉新車を試乗してもらい、製品の完成度を内外に強くアピールするのが狙いだった。競合車種である欧州の高級車と遜色ないクオリティーを実感させようという考えもあった。

 しかし、メーカーの目論見とは裏腹に、試乗会ではクレームが多数寄せられたのだ。「速度が200キロを超えたあたりから、ハンドルがブレ始め相当に危険だった」(参加したフリーライター)というのがその中身。

 多くの自動車専門ジャーナリストやライターが冒頭のような感想を抱いたものの、「メーカー側はタイヤ空気圧の調整に不備があったとの説明を繰り返した」(同)ため、この目玉車の「高速走行時の不具合」はほとんど日本のメディアに載ることはなかった。

 高速道路、しかも時速200キロオーバーが当たり前のアウトバーンで試乗会を行う際、空気圧のチェックは欠かせない。空気圧が適正でなければ、最悪の場合タイヤがバーストし、重大な事故を招いてしまう事態が起こり得るからだ。したがって、従前の「空気圧の調整に不備があった」という説明をうのみにした試乗会参加者はほとんどいなかったという。

 なぜ、このような重大なミス、しかも冒頭の言葉にあるように「設計段階のミス」が想定されるような事態が報じられなかったのか。

 ここには、日本の自動車業界が抱える深い事情があるのだ。

●御用ライターがクルマ離れの遠因?

 日本の自動車会社の多くが新聞やテレビ、あるいはインターネットに大量の広告を出稿しているのは周知の事実だ。先に触れたリーマンショック以降、広告の出稿量が激減したため、「スポンサーの意向に沿わない内容を報じるのは相当な勇気が必要」(某民放局プロデューサー)という状況が顕在化している。これが自動車専門紙誌、あるいは専門サイトであれば尚更なのだ。

 「意に沿わない原稿を出せば、試乗会やイベントに参加できなくなり、即座に廃業のリスクが高まる」(ベテランのライター)ほか、「Webサイトの主要な収入である広告がゼロになってしまう」(編集担当者)ためだ。

 実際、メーカー関係者からは「手厳しいことを書かれぬよう、ベテランを中心に定期的に接待を繰り返している」(某大手広報幹部)との声が漏れてくる。

 主要紙やテレビでは、新車や注目モデルの詳報を得ることは難しい。よって、筆者のようなクルマ好きは自動車専門誌を購入し、あるいは専門Webサイトで情報を得ている。自動車は数万点にも上るパーツの集合体であり、定期的に人事異動を繰り返す大手紙やテレビの記者がフォローできない専門情報が多いため、自動車評論家、あるいはジャーナリストの分析・解説記事が、クルマ好きには必要不可欠なのだ。

 「メーカーと専門記者が絶対に接待の場で会ってはならない」などと青臭いことを主張するつもりは一切ない。ただ、広告確保やつなぎ止めのため、メディア側が過剰な配慮をしたり、果ては安全性に関わるような問題までメーカーの説明をうのみにしてしまうのでは、専門記者の存在意義などなくなってしまう。

 実際、今年に入ってから自動車専門誌の休刊が相次いでいるのは、多くの読者がこうしたメディア側の「腰砕け」傾向を敏感に感じとってしまったからではないのだろうか。

 先のアウトバーンの事例だけでなく、エコカー減税をめぐる不透明な車重区分の存在、実燃費とメーカー公表燃費の大きな差など、日本の自動車業界全体をめぐる諸問題はほとんど報じられていない。

 現状、こうしたネタを制約なく書いている人は、日本に数人しかいない。自動車専門ジャーナリストの奮起を期待したい。【相場英雄】

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