庄屋を出てカラオケ屋に向かう。
幕張駅前通りを4人して道いっぱいに広がって歩く。
前から歩いてくる一般市民は道の端っこに避けて行く。
見るからに異様な4人組みに絡んでくるような奴はいない。
タケシとアッキョがじゃれあう。
「痛てーなこらっ」
「うっせーこらっ」
「テメー殺すぞ」
「ざけんなテメー」
仕舞いにはど突き合い。別に止める必要も無い。
そりゃ20年ぶりだ、好きなだけじゃれあっておけばいいさ。
下りてきた遮断機に気付かず激突してひっくり返るタケシ。
わけもわからずわめき散らす。
しょうもねー奴らだ。
そんな様子を嬉しそうに見つめるエーイチ。
懐かしい、実に懐かしい。
こんな光景は高校時代以来のことだ。
素直に思った。
またこいつらと、こうやって歩きたい。
いつまでもこんな時が続けばいいと。
薄汚い雑居ビルの2階にあるカラオケスナックに入った。
タケシが嬉しそうに叫ぶ。
「おーここ昔、喫茶店だったとこだよな。
下はよー、ほら、パチンコ屋だったじゃんか。
休みの日にゃ一日中こことパチンコ屋に入り浸ってつけな」
「そーいやよ、俺、〇〇さんに呼び出されたのココだったわ」
「○○さんって誰だよ」
「ほら、あれだよ、〇〇組のだよ」
「あーあれか」
「おうよ、ココに呼び出されてスカウトされたんだよな」
再び昔話に花が咲く。
そしてエーイチにおねだりして11枚つづりのカラオケ券を買ってもらった
アッキョのワンマンショーが始まる。
店のママさんとデュエットするアッキョ。
調子に乗ってママさんの腰に手を回しキスを迫り、頭を叩かれている。
それを見ていたA1が呟く。
「あいつよー、あれを一般の客の女にやるんだよ。今はママさんだからいいけどな」
「そりゃ揉めるわな」
「そーだよ。あの野郎は調子乗ってわめき散らすだけだけどよ、こっちは収拾つけるの大変なんだよ」
そーやっていつもエーイチを困らせ続けてきたアッキョは、
あくまでもノー天気。10曲連続で歌い続けた。
エーイチが立ち上がる。
「俺も1曲歌っておくか」
得意のサンタマミーを熱唱。
相変わらずママさんにちょっかいを出して騒ぐアッキョにタケシが切れる。
「うっせー黙って聴け」
「なんだよエーイチ君のヘタクソな歌なんてどーでもいいじゃんかよなー」
俺に同意を求めてくるアッキョだったが、流石に俺も無視。
すると再びママさんにちょっかいを出し始めるアッキョ。
「もうアッキョはほっとけ」
そう言ったタケシを見ると、泣いていた。溢れる涙を抑えきれず泣いていた。
「エーイチの歌聴くのもよ、これが最後にな…」
最後は言葉になってないが、俺も気持ちは一緒。俺も涙が溢れてきた。
「ちょっとションベンしてくるわ」
席を立ち、独り便所で泣いた。
店を出る。アッキョはイイ気分のまま駅とは反対方向の家に帰って行った。
帰って行くアッキョの背中に向かいエーイチが呟いた。
「まったくあいつはしょうもねー奴だ。でもあいつはあれでいーんだ」
そう言うと、奴の背中が見えなくなるまで見送っていた。
駅に向かう3人は無言だった。
駅前ロータリーで立ち止まる。
一瞬の沈黙の後、エーイチが口を開いた。
「なんだかな、もうジタバタしたってしょうがねー」
「後は医者に任せるだけだ。じゃ行ってくるわ」
そう言うとくるりと背中を向け帰って行った。
エーイチの背中を見つめる俺たちは無言だった。
エーイチの姿が夜の闇に消えるまで見送ると、俺は京成へ、タケシはJRへ。
お互い無言のまま、エーイチの無事を祈りつつ帰途についた。
A1の背中が夜の闇に消えていったあの日、
俺はどうしようもない不安と、どうしようもない愛しさを抱えたまま家路についた。
その夜、布団に入っても眠れなかった。
目を閉じると、20年前のあいつらの笑い声が、鮮やかに蘇ってきた。
忘れていたはずの記憶。
記録にも残っていない、断片だけの思い出。
だけど確かに、俺の中に焼き付いている光。
あれは——残像だ。
