今年はさまざまな形で遺伝子検査が取り上げられてきている。
今はまだ部分的な応用にとどまっているが、今後あらゆる病気の予測や、
その人の性格を明らかにすることに大きな力を発揮していくだろう。

その一方で、一生変えられない自分の特徴が明らかになってしまうわけであり、
非常に恐ろしいことでもある。「究極の個人情報」が漏えいした日には、どんな
不利益となるのか今の時点では想像がつかない。

ただし、自分の究極の個人情報を手に入れることは、本当に爆弾を抱えながら
毎日を過ごすということだけなのだろうか。
逆の考え方をすれば、自分が世界に唯一の塩基配列を持つ、非常にユニークな
存在であることを改めて確認することができる。
これによって、自己肯定のための
一つの足掛かりを得ることにはつながらないだろうか。

例えば、うつに罹患した人が元に復帰するまでの過程で、「ありのままの自分を
受け入れること」が必要になるという段階がある。理想と現実のギャップに悩み
すぎると、自己否定に陥ってしまうので、そこから抜け出すときに必要なのが、
単純にでも自分を肯定することなのだ。

自己肯定をするためには、自分を相対化するのを一旦やめ、自分の絶対的な
存在そのものに目を向ける必要がでてくる。
ヒト1人の塩基配列全部は30億文字あり、そのうち個人差に寄与しているのは
せいぜい0.3%と言われているが、それでも1000万箇所もあるわけである。
ATGC4種類の変異が1000万箇所にありえるのであるから、4の1000万乗という
途方もない多様性が出来上がり、(一卵性の双子を除けば)これまでに存在した
人類の数を全部合わせても、自分自身と同じゲノム塩基配列を持つ人がいることは
天文学的にありえない確率ということになる。

(実際には1箇所につき多様性が2種類しかない場所、というのもかなりあるが、
細かいので省略する)

もちろん、これだけを取り上げて「自分の存在を無条件で全肯定できる」と思うには
楽観的すぎるだろう。
が、自分の価値を取り戻していくための、長いステップにおける第一歩の話題としては、
十分取り上げる価値があるのではないだろうか。