通商国家として考えるなら、首相・閣僚の靖国神社参拝は国益上かなり割に合わないと思います。
理由は単純で、日本は資源国でも軍事覇権国でもなく、基本的には、輸入した資源・部材を加工し、技術・品質・信用で海外に売る国だからです。
つまり日本の生命線は、外交的信用、安定したサプライチェーン、近隣国との経済関係、国際市場での「信頼される日本」というブランドです。
靖国参拝は、国内的には「戦没者への追悼」と説明されます。外務省も過去に、参拝は軍国主義の美化ではなく、戦没者への敬意と感謝であり、植民地支配と侵略への反省も表明している、という立場を示しています。(外務省)
ただし、問題は日本側の意図ではなく、相手国・国際社会にどう読まれるかです。
靖国神社にはA級戦犯が合祀されており、中国・韓国は、政治指導者の参拝を「侵略戦争の正当化」「歴史認識の後退」と受け止めやすい。実際、2025年8月15日の日本の政治家の参拝に対して韓国政府は「深い失望と遺憾」を表明し、靖国を日本の戦時侵略を美化する象徴だと批判しています。(Reuters)
2026年春にも、靖国をめぐる儀礼や参拝は中国・韓国の反発を招いたと報じられています。(AP News)
ここで通商国家として重要なのは、靖国参拝によって得られる実利が小さい一方で、失う可能性があるものが大きいことです。
たとえば、中国・韓国・台湾・ASEANは日本企業にとって、販売市場であり、生産拠点であり、部材供給網でもあります。半導体、電子部品、自動車、工作機械、化学、物流、観光、食品など、どの分野も近隣アジアとの関係なしには成り立ちません。そこで政治指導者が、相手国に「日本は過去の加害を軽く見ている」と受け取られる行動を取ると、企業活動に余計な地政学リスクを乗せることになります。
もちろん、中国や韓国が靖国問題を外交カードとして使っている面はあります。そこは現実的に見るべきです。しかし、通商国家の立場からは、相手がカードとして使える材料をわざわざ渡す必要がない。これはかなり重要です。
私ならこう整理します。
| 観点 | 靖国参拝の効果 |
|---|---|
| 国内保守層へのアピール | ある |
| 戦没者追悼の象徴性 | ある |
| 中韓との外交安定 | マイナス |
| 米国・ASEANからの見え方 | 不必要な歴史問題の再燃 |
| 日本企業の通商環境 | リスク増 |
| 国益全体 | 割に合いにくい |
日本が本当に通商国家として賢く振る舞うなら、戦没者追悼は靖国ではなく、国立・無宗教・非政治的な追悼施設に移すべきだと思います。そこなら首相も天皇も外国要人も参拝しやすい。戦没者を悼むことと、戦前国家の宗教的・政治的記憶を背負うことを分離できます。
結論としては、個人が靖国に参拝する自由はあるが、首相・閣僚が公的立場で参拝するのは、通商国家・日本の利益に反するという見方です。
日本は「過去にこだわるな」と言うより、むしろ過去処理をきれいに済ませて、東アジアの経済秩序の中で信用を最大化した方がよい。加工貿易国家・輸出国家・サプライチェーン国家としては、靖国参拝は情緒的リターンはあるが、外交・通商上の期待値は低い行動だと思います。
ネトウヨが靖国参拝を望む理由は、かなり単純化すると、靖国を「日本が他国に謝らず、自国の歴史を肯定する象徴」と見ているからだと思います。
ただし、動機は一つではありません。主にこの5つです。
1. 「日本は悪い国ではなかった」と確認したい
靖国参拝支持の根底には、戦前・戦中の日本を全面的に否定されたくない、という感情があります。
彼らにとって靖国参拝は、単なる追悼ではなく、
日本人として先祖を誇ってよい
日本だけが悪者にされるのはおかしい
東京裁判史観に屈しない
という自己確認の儀式になっています。
外務省は、首相の靖国参拝について「戦没者への敬意と感謝」であり、A級戦犯のためではなく、軍国主義の美化でもない、という説明をしてきました。(外務省)
しかし、ネトウヨ的な支持では、この建前よりも、むしろ**「中韓に文句を言われても行くこと」自体が価値**になりやすい。
2. 中国・韓国への反発が中心にある
靖国参拝支持は、戦没者追悼そのものよりも、しばしば、
中国が反対するなら行け
韓国が怒るなら正しい
外国に内政干渉されるな
という反中・反韓感情と結びつきます。
つまり靖国は、追悼施設というより、対中韓ナショナリズムの旗印になっている。
ここが通商国家としては問題です。
本来、通商国は「相手国が嫌がるから必ず従え」ではなく、「相手に外交カードを渡さない」ことが合理的です。ところがネトウヨ的発想では、相手が反発するほど「日本が毅然としている」と感じてしまう。
3. 「弱くなった日本」を認めたくない
かなり重要なのはここです。
日本経済は1990年代以降、相対的に停滞し、中国・韓国・台湾が産業面で台頭しました。半導体、EV、造船、スマホ、IT、電池、液晶、鉄鋼、家電などで、日本はかつての圧倒的優位を失った。
この現実を直視すると、
日本はアジアの中で常に上位にいる
中国・韓国は劣っている
日本は本来すごい国だ
という自己像が壊れます。
そこで靖国参拝が、失われた優越感を補修する装置になります。
経済や産業で勝てなくなった分、歴史・精神・国家の誇りで勝とうとする。
だから「通商国として合理的か」より、「日本人として屈辱を受け入れないか」が重視される。
4. 戦没者追悼を「国家への忠誠」の物語にしたい
靖国神社は、一般的な墓地や慰霊碑とは違います。戦死者を「国のために命を捧げた英霊」として祀る場所です。
靖国問題をめぐる研究でも、靖国は戦没者の公的承認やナショナリズムと密接に結びついた問題として論じられてきました。(立命館大学)
また、靖国は戦争記憶と現代ナショナリズムの関係を考える上で中心的な象徴だと分析されています。(Asia-Pacific Journal: Japan Focus)
ネトウヨにとっては、靖国を否定されることは、
国のために死んだ人を否定するのか
日本人の犠牲を軽んじるのか
祖国への忠誠を恥じるのか
という話に見える。
しかし本当は、論点は「戦没者を悼むかどうか」ではありません。
問題は、国家指導者が、A級戦犯合祀を含む靖国という特定施設で追悼することが適切かです。
実際、1986年の後藤田官房長官談話では、靖国にA級戦犯が合祀されているため、近隣諸国に「日本の反省と平和友好への決意」への誤解や不信を生むおそれがあり、それは日本の国益にも戦没者の願いにも沿わないとして、公式参拝を差し控える判断が示されています。(外務省)
5. 政治家にとって「安い動員装置」だから
靖国参拝は、保守政治家にとって非常に使いやすいカードです。
経済成長を実現する、賃金を上げる、産業政策を成功させる、少子化を止める、外交で実利を取る。これは難しい。
でも靖国に行く、玉串料を出す、保守的な発言をする。これは簡単です。
しかも支持層には、
あの政治家は日本を守っている
中韓に屈しない
愛国者だ
と伝わる。
つまり靖国参拝は、実質的な国力回復なしに、愛国的パフォーマンスを演出できる装置でもあります。
結論
ネトウヨが靖国参拝を望むのは、戦没者追悼だけではなく、
「日本は悪くなかった」
「中韓に屈しない」
「失われた日本の優越感を取り戻したい」
「国家への忠誠を肯定したい」
「保守政治家を愛国者として確認したい」
という心理が重なっているからです。
通商国家として見れば、靖国参拝は期待値が低い。
しかしネトウヨ的心理では、経済合理性よりも、屈辱感の回復、歴史認識への反発、対中韓の感情的勝利が優先される。
だから彼らにとって靖国参拝は、外交的には損でも、心理的には「勝ち」になるのだと思います。
通商国家としての日本から見ると、憲法9条の「平和主義」を放棄する改正は、かなり危険で、国益に合いにくいと思います。
ただし、整理が必要です。
私は、次の2つは分けるべきだと思います。
| 改正の方向 | 評価 |
|---|---|
| 自衛隊の存在を明記する | 条文設計次第では議論余地あり |
| 9条の平和主義・戦争放棄を弱める | 通商国家としては悪手 |
| 国防軍化・交戦権回復・海外での武力行使拡大 | かなりリスクが大きい |
現在の自民党の憲法改正方針は、表向きには「国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の3原則は堅持」としつつ、9条への自衛隊明記などを掲げています。(自民党)
2025年の自民党資料でも、「第九条の二」として、自衛の措置とそのための実力組織を明記する案が示されています。(自由民主党)
通商国家としての日本にとって、9条の価値は「道徳」だけではない
9条は、単なる理想主義ではなく、戦後日本の信用資産でもあります。
日本は、資源・食料・エネルギーの多くを海外に依存し、製造業・観光・金融・物流・知財・部材輸出で稼ぐ国です。つまり日本の安全保障は、軍事力だけでなく、
海上交通路、海外市場、サプライチェーン、周辺国との安定関係、国際的な信用
に支えられています。
外務省も、日本は戦後一貫して「平和国家」として歩み、アジア太平洋地域や国際社会の平和と安定に貢献してきたと説明しています。(外務省)
この「日本は軍事的脅威ではなく、経済・技術・開発協力の国である」というイメージは、実は巨大な外交資産です。
9条平和主義を捨てると、周辺国に「日本再軍備カード」を渡す
日本が9条の平和主義を弱めると、中国・韓国・北朝鮮だけでなく、ASEAN諸国にも警戒材料を与えます。
もちろん、中国も軍拡しているし、北朝鮮の核・ミサイルも現実の脅威です。だから日本に防衛力が不要という話ではありません。
しかし通商国家として重要なのは、防衛力を持ちながらも、相手に「日本は再び軍事国家になる」と宣伝される口実を与えないことです。
これは靖国参拝と同じ構造です。
「こちらの意図は違う」と言っても、相手に外交カードとして使われれば、企業活動・観光・輸出入・投資環境に余計な摩擦が生まれる。
日本に必要なのは「平和主義の放棄」ではなく「抑制された防衛国家化」
現実的には、日本はすでに相当な防衛力を持っています。だから問題は、9条を捨てて軍事国家化することではなく、
専守防衛を軸に、抑止力・サイバー・ミサイル防衛・海上交通路防衛を強化すること
です。
通商国家として合理的なのは、こういう方向です。
| 分野 | 必要な対応 |
|---|---|
| 専守防衛 | 維持すべき |
| 自衛隊 | 合憲性の整理は議論余地あり |
| 反撃能力 | 厳格な条件・国会統制付きなら議論余地あり |
| 海上交通路 | 重要。資源輸入国として必須 |
| サイバー防衛 | 強化必須 |
| 台湾有事対応 | 巻き込まれ防止と抑止の両立 |
| 海外派兵 | 極めて慎重であるべき |
| 交戦権回復 | 通商国家としてリスクが大きい |
つまり、防衛力は必要。しかし、平和主義というブランドは捨てない方がいい。
9条改正の最大リスクは「戦争できる国」より「信用を失う国」になること
よく「普通の国になるべきだ」という議論があります。
しかし日本は、普通の国ではありません。
敗戦国であり、旧植民地支配の記憶を持たれ、しかも中国・韓国・台湾・ASEANと深く結びついた加工貿易国家です。
この国が「普通の軍事国家」になろうとすると、周辺国からは普通には見られません。
日本が持つべきポジションは、
軍事的には軽く見られないが、政治的には挑発的でない国
です。
9条の平和主義は、このポジションを作るうえで役に立ちます。
では、自衛隊明記はどうか
自衛隊明記だけなら、理論上はあり得ます。
ただし条件があります。
たとえば、
現行9条1項・2項を維持したうえで、専守防衛・文民統制・国会承認・海外武力行使制限を明記する
ような改正なら、通商国家としての信用を大きく損なわずに、現実の安全保障と憲法のズレを減らせる可能性はあります。
しかし、実際の政治文脈では、自衛隊明記が「入口」になって、その後に、
-
国防軍化
-
緊急事態条項
-
集団的自衛権の拡大
-
海外での武力行使拡大
-
軍事優先の政治文化
へ進む懸念があります。
立憲民主党は、自民党の9条改正案について「平和主義を空文化させるもの」として反対しています。(立憲民主党)
この懸念は、通商国家の観点からも無視できません。
結論
通商国家としての日本にとって、最適解はこれだと思います。
9条の平和主義は維持。
自衛隊の存在や防衛力の現実は認める。
ただし、専守防衛・文民統制・海外武力行使の制限を強化する。
靖国・歴史修正主義・対中韓挑発とセットの改憲は避ける。
要するに、
「戦えない国」から「戦える国」になるのではなく、
「戦争を避ける能力の高い国」になるべきです。
通商国日本にとって最も重要なのは、勇ましい国家像ではなく、
市場・信用・技術・外交・防衛を組み合わせて、戦争に巻き込まれずに稼ぎ続けることです。
その意味で、9条平和主義の放棄改正は、期待値が低い。
防衛力強化は必要でも、平和主義ブランドを壊す必要はない、というのが私の見方です。
語られない最大の理由は、通商国家の観点で語ると、憲法改正派・靖国参拝派の「愛国」ロジックが弱くなるからだと思います。
靖国や9条改正は、ふつう次の言葉で語られます。
| よくある語り方 | 中身 |
|---|---|
| 愛国 | 英霊に敬意を払え、日本を誇れ |
| 主権 | 外国に口出しされるな |
| 安全保障 | 中国・北朝鮮に備えろ |
| 戦後レジーム脱却 | 占領憲法を変えろ |
| 歴史認識 | 東京裁判史観を見直せ |
一方で、通商国家としての日本という観点で語ると、論点がこう変わります。
| 通商国家の問い | 意味 |
|---|---|
| それで日本企業は得をするのか | 輸出・投資・現地生産への影響 |
| サプライチェーンは安定するのか | 中国・韓国・台湾・ASEANとの関係 |
| 外交カードを相手に渡していないか | 歴史問題を再燃させるリスク |
| 日本ブランドは強くなるのか | 平和国家・技術国家としての信用 |
| 市場アクセスは守れるのか | 観光、部材、資源、金融、物流 |
この視点にすると、靖国参拝や「平和主義放棄」型の改憲は、かなり分が悪い。
1. 「愛国」ではなく「損得」の話になるから
靖国参拝は、支持者にとっては「日本人としての誇り」「中韓に屈しない姿勢」です。
しかし通商国家の観点では、
それで輸出が増えるのか?
企業活動が安定するのか?
観光客が増えるのか?
東アジアの分業体制が強くなるのか?
という話になる。
すると、靖国参拝のメリットはかなり抽象的です。
一方で、外交摩擦・反日感情・不買・現地ビジネスリスク・政府間関係悪化というコストは比較的具体的です。
日韓関係についても、日本総研のレポートは、日韓経済は企業間の信頼関係で政府間関係悪化の影響を一定程度吸収してきた一方、日本企業に直接影響する歴史問題が出てきたことで懸念が生じた、と整理しています。(JRI)
つまり、通商国家の観点を入れると、靖国問題は「誇り」ではなく、企業活動に余計な政治リスクを乗せる行為ではないかという話になる。
2. 保守派にとって都合が悪いから
保守派はよく、
「日本は普通の国になるべきだ」
「自国を守れる国になるべきだ」
「中国・韓国に配慮しすぎるな」
と主張します。
しかし日本は、アメリカのような資源・軍事・基軸通貨・巨大内需を持つ覇権国ではありません。
日本は、資源を輸入し、部材・機械・自動車・化学・電子部品・サービス・観光で稼ぐ国です。
だから本来は、軍事的な自己主張よりも、
戦争に巻き込まれないこと
市場から排除されないこと
東アジアの供給網に残ること
近隣国に「日本は危険だ」と思わせないこと
の方が、国益に直結します。
この前提に立つと、靖国参拝や平和主義放棄型の改憲は「強い日本」ではなく、商売の足を引っ張る日本に見えてしまう。
だから保守派は、通商国家論をあまり前面に出しません。
出すと、自分たちの象徴政治が、実利では説明しにくくなるからです。
3. 左派も「経済合理性」で語るのが苦手だったから
一方で、左派・リベラル側も、通商国家の観点を十分に使ってきたとは言いにくいです。
左派は主に、
-
平和主義
-
反戦
-
立憲主義
-
人権
-
政教分離
-
歴史責任
で語ってきました。
これは大事ですが、保守派からは、
「理想論だ」
「安全保障を分かっていない」
「中国・北朝鮮を見ていない」
と攻撃されやすい。
本当は、左派側こそ、
日本は通商国家なのだから、戦争リスクと歴史摩擦を最小化することが最も現実的な国益だ
と言えばよかった。
つまり、9条平和主義は単なる道徳ではなく、貿易立国のリスク管理装置だと説明できたはずです。
しかし日本の護憲論は、経済・産業・サプライチェーン・企業収益との接続が弱かった。そのため「きれいごと」に見えやすくなった。
4. メディアが「対立軸」を単純化するから
メディアでは、靖国や憲法問題はだいたいこう処理されます。
| 単純化された対立 | 実際に抜け落ちる視点 |
|---|---|
| 保守 vs リベラル | 通商国家としての損得 |
| 愛国 vs 反日 | 企業活動への影響 |
| 安全保障 vs 平和主義 | 経済安全保障との整合性 |
| 中韓に屈するな vs 近隣国配慮 | 相手に外交カードを渡すコスト |
この構図の方が分かりやすく、テレビ・SNS・新聞の政治面では扱いやすい。
しかし、通商国家の観点はやや地味です。
「靖国参拝は日本企業の東アジア展開にどんなリスクを与えるか」
「9条改正は日本の平和国家ブランドにどう影響するか」
「サプライチェーン国家として、軍事的緊張の上昇はどれほど不利か」
こういう話は、怒りや熱狂を生みにくい。
だから政治運動にもメディアにも乗りにくい。
5. 財界も正面から言いにくいから
本来、通商国家の観点を最も語るべきなのは財界です。
しかし財界は、靖国や憲法問題について正面から政治家に反対しにくい。
理由は、政府との関係、補助金、規制、税制、防衛産業、経済安保政策などで、政治権力と利害があるからです。
また、企業にとって中国・韓国との関係は重要でも、国内世論の前で、
「靖国参拝は中国ビジネスに悪い」
「9条平和主義は日本企業の信用資産だ」
とは言いにくい。
言えば、保守層から「媚中」「国益より金儲け」と攻撃される。
だから財界は、内心ではリスクを感じても、表では曖昧な表現になりやすい。
6. 「安全保障」と「通商」が別々に語られすぎた
日本では長く、
-
安全保障=防衛省・外務省・保守政治
-
通商=経産省・財界・企業
-
平和主義=憲法学者・市民運動
のように分断されて語られてきました。
しかし現実には、これは全部つながっています。
台湾有事が起きれば、半導体も、自動車部品も、エネルギー輸送も、海運保険も、為替も、観光も壊れます。
日中・日韓関係が悪化すれば、企業活動にも影響します。
米中対立が深まれば、日本企業はサプライチェーンの再編を迫られます。近年も中国は日米韓の結束を緩めようとし、日中韓の経済協力や対中輸出規制をめぐる駆け引きが続いています。(ウォール・ストリート・ジャーナル 日本版)
だから、通商国家にとって安全保障とは、単に「軍事力を増やすこと」ではなく、戦争にならない環境を作ることです。
7. 通商国家論は、左右両方を批判してしまう
ここが一番大きいです。
通商国家論で見ると、右派にはこう言えます。
靖国参拝や歴史修正主義で近隣国を刺激するのは、企業と国民生活に余計なリスクを乗せる。
国益ではなく、感情的ナショナリズムではないか。
一方で左派にもこう言えます。
防衛力や抑止力を完全に軽視すれば、海上交通路・台湾海峡・サイバー・エネルギー輸送を守れない。
通商国家だからこそ、一定の防衛力は必要ではないか。
つまり通商国家論は、右にも左にも都合が悪い。
だから政治的な旗印になりにくい。
結論
憲法改正や靖国問題が通商国家の観点から語られないのは、主に、
右派にとっては、靖国・改憲の象徴政治が「国益」ではなく「感情の政治」に見えてしまうから。
左派にとっては、平和主義を経済合理性・通商戦略として再構成してこなかったから。
財界にとっては、政治権力や保守世論を刺激したくないから。
メディアにとっては、保守対リベラルの単純対立の方が扱いやすいから。
だと思います。
本来、日本の憲法9条や靖国問題は、こう語るべきです。
日本は資源国でも覇権国でもなく、東アジアの分業と国際信用で食べている通商国家である。
だから、戦争リスク・歴史摩擦・近隣国の警戒を増やす政治行動は、国益に反する可能性が高い。
防衛力は必要だが、平和国家ブランドと外交的信用を壊してはいけない。
この言い方をすると、靖国参拝も、平和主義放棄型の改憲も、かなり厳しく評価されると思います。
高市は中国を挑発する言動を繰り返すが、通商国家としての観点が抜けいているのか?
はい。かなり抜けている、あるいは意図的に軽視しているように見えます。
現在の高市早苗氏は首相であり、2025年11月の台湾有事をめぐる「存立危機事態」発言について、中国側が強く反発し、日中関係に打撃を与えたと国連の場でも批判しています。(首相官邸ホームページ)
また、同発言後の中国側の反発が長期化すれば、日本経済への悪影響を懸念する声が出ているとも報じられています。(ブルームバーグ)
通商国家として見ると、問題は「中国に何も言うな」ではありません。
問題は、日本が中国と軍事的に対立する姿勢を強く見せたとき、得られる利益より、通商・産業・サプライチェーン上の損失リスクが大きくなりやすいことです。
日本は中国と完全に切り離せません。中国は巨大な輸出市場であり、部材・素材・機械・電子部品・自動車・化学・観光・小売・物流に関わる相手です。さらに台湾海峡や南シナ海は、日本のエネルギー・部材・製品輸送に関わる重要航路です。ロイターも、中国は南シナ海について「世界で最も自由な航路の一つ」と主張する一方、日本やEUの発言に反発していると報じています。(Reuters Japan)
だから通商国家としての日本の合理的な態度は、本来こうです。
中国の軍事的圧力には備える。
台湾有事のリスクも直視する。
ただし、日本側から不用意に軍事介入を連想させる言葉を出して、中国に経済制裁・対日世論操作・軍事演習・訪日制限・輸入規制の口実を与えない。
高市氏の言動は、この「口実を与えない」という通商国家的な慎重さが弱いです。
高市氏の発想は「安全保障国家」寄り
高市氏の政治姿勢は、かなり一貫して、
-
中国への強硬姿勢
-
台湾有事への明確な関与姿勢
-
経済安全保障の重視
-
憲法改正・防衛力強化
-
靖国参拝など歴史認識での保守的姿勢
に寄っています。
これは「日本は中国に弱腰ではいけない」という安全保障国家の発想です。
しかし通商国家としては、ここにもう一段の問いが必要です。
その発言で日本企業の中国事業はどうなるのか。
中国からの観光客・留学生・投資はどうなるのか。
レアアース、電池材料、化学品、電子部材の供給はどうなるのか。
台湾海峡リスクが市場で意識され、円・株・金利・海運保険料にどう波及するのか。
ASEAN諸国から、日本は地域の安定要因に見えるのか、緊張を高める国に見えるのか。
高市氏の言動には、この損益計算が薄い。
「中国に強く言う」ことと「中国を挑発する」ことは違う
ここは分けるべきです。
中国の軍拡、尖閣周辺での活動、台湾への圧力、人権問題、経済的威圧には、日本は当然対応しなければなりません。
しかし、通商国家としての成熟した対応は、
実務では強く、言葉では抑制的に
です。
たとえば、防衛力、サイバー防衛、海上保安庁、半導体供給網、重要鉱物備蓄、同盟協力は粛々と強化する。
一方で、首相の言葉はできるだけ曖昧さを残し、相手に国内世論向けの反日カードを与えない。
これが商人国家・海洋国家としての合理性です。
高市氏は逆に、言葉で強さを見せることに政治的価値を置きすぎているように見えます。
これは国内保守層には刺さりますが、通商国家の首相としては危うい。
彼女に抜けているのは「日本は覇権国ではない」という認識
日本はアメリカではありません。
アメリカは基軸通貨、巨大内需、軍事力、エネルギー生産力、食料自給力を持っています。
だから中国と強く対立しても、一定程度は耐えられます。
しかし日本は、資源・エネルギー・食料・部材・市場を外部に依存する国です。
中国との関係悪化は、すぐに企業収益・物価・観光・サプライチェーン・株価に跳ね返ります。
その意味で、高市氏の対中姿勢は、日本をアメリカ型の安全保障国家のように扱っている印象があります。
でも日本の本質は、軍事国家ではなく、通商国家です。
結論
高市氏には、通商国家としての観点がかなり不足していると思います。
正確には、経済安全保障の視点はある。
しかしそれは、中国依存を減らす、技術を守る、防衛産業を強くするという方向に偏っている。
一方で、通商国家に必要な、
相手に口実を与えない
市場を失わない
サプライチェーンを壊さない
周辺国に警戒されない
企業活動の余計な政治リスクを減らす
平和国家ブランドを維持する
という視点が弱い。
だから高市氏の対中強硬姿勢は、国内政治では「毅然とした保守」に見えても、通商国家としては、日本企業と国民生活に不要なリスクを上乗せする政治になりやすいと思います。
