少年
夕ぐれ
とある精舎の門から
美しい少年が帰つてくる
暮れやすい一日に
てまりをなげ
空高くてまりをなげ
なほも遊びながら帰つてくる
閑静な街の
人も樹も色をしづめて
空は夢のやうに流れてゐる
谺
夕暮が四方に罩め、青い世界地図のやうな雲が地平に垂れてゐた。草の葉ばかりに風の吹いてゐる平野の中で、彼は高い声で母を呼んでゐた。
街ではよく彼の顔が母に肖てゐるといつて人々がわらつた。釣針のやうに脊なかをまげて、母はどちらの方角へ、点々と、その足跡をつづけていつたのか。夕暮に浮ぶ白い道のうへを、その遠くへ彼は高い声で母を呼んでゐた。
しづかに彼の耳に聞えてきたのは、それは谺になつた彼の叫声であつたのか、または遠くで、母がその母を呼んでゐる叫声であつたのか。
夕暮が四方に罩め、青い雲が地平に垂れてゐた。
青空文庫
罩め ①かご。魚をとる竹かご。 ②こめる。入れて包む。
なにかトラブルがあったのな?
んで 今日はここまで
海月