酒の黴

 

酒屋男は罰ぶらんが不思議、ヨイヨイ、足で米といで手で流す、ホンニサイバ手で流す。ヨイヨオイ。

 


きんの酒をつくるは
かなしき父のおもひで、
するどき歌をつくるは
その兒の赤き哀歡あいくわん

きんの酒つくるも、
するどき歌をつくるも、
よしや、また、わかき娘の
てて知らぬ子供生むとも…………
 


からしの花の實になる
春のすゑのさみしや。
酒をしぼる男の
肌さへもひとしほ。
 


酒袋さかぶくろを干すとて
ぺんぺん草をちらした。
散らしてもよかろ、
そのとなるもせんなし。
 


※(「酉+元」、第3水準1-92-86)もとすり唄のこころは
わかき男の手にあり。
かいをそろへてやんさの
そなた戀しと鳴らせる。
 


麥の穗づらにさす日か、
酒屋男さかやをとこにさす日か、
輕ろく投げやるこころの
けふをかぎりのあひびき。
 


人の生るるもとすら
知らぬ女子をなごのこころに、
が馴れ初めし、酒屋の
にほひか、麥のむせびか。
 


からしの花も實となり、
麥もそろそろ刈らるる。
かくしてはやも五月は
はかる手にあふるる。
 


はじ實採みとりの來る日に
百舌もず啼き、人もなげきぬ、
酒をつくるは朝あけ、
君へかよふは日のくれ。
 


ところも日をも知らねど、
ゆるししひとのいとしさ、
その名もかほも知らねど、
ただ知る酒のうつり香。
 

10


足をそろへてぐ米、
水にそろへて流す手、
わかいさびしいこころの
歌をそろゆる朝あけ。
 

11


ひねりもちのにほひは
わが知る人も知らじな。
かたくなのひとゆゑに
何時いつまでひねるこころぞ。
 

12


ほのかに消えゆくゆめあり、
酒のにほひか、わが日か、
倉の二階にのぼりて
暮春をひとりかなしむ。
 

13


さかづきあまたならべて
いづれをそれと嘆かむ、
※(「口+利」、第3水準1-15-4)ききざけするこころの、
せんなやわれも醉ひぬる。
 

14


その酒の、その色のにほひの
口あたりのつよさよ。
おのがつくるかなしみに
られて泣くや、わかうど。
 

15


酒をかもすはわかうど、
心亂すもわかうど、
誰とも知れぬ、女の
その兒の父もわかうど。
 

16


ほのかに忘れがたきは
酒つくる日のをりふし、
ほのかに鳴いて消えさる
青い小鳥のこころね。
 

17


酒屋の倉のひさしに
薊のくさの生ひたり、
その花さけば雨ふり、
その花ちれば日のてる。
 

18


計量機カンカンに身を載せて
はかるは夏のうれひか、
薊の花を手にもつ
裸男の酒の香。
 

19


かなしきものは刺あり、
きずつき易きこころの
しづかに泣けばよしなや、
酒にもかびのにほひぬ。
 

20


目さまし時計の鳴る夜に
かなしくひとり起きつつ
倉を巡囘まはれば、つめたし、
月の光にさく花。
 

21


わがる倉のほとりに

青き放つものあり、
螢か、酒か、いの寢ぬ、
合歡木カウカノキのうれひか。
 

22


倉の隅にさす日は
ほのかに光り消えゆく、
古りにし酒の香にすら、
人にはそれと知られず。
 

23


青葱とりてゆく子を
薄日の畑にながめて
しくしくいたむこころに
酒をしぼればふる雪。
 

24


銀の釜に酒を湧かし、
金の釜に酒を冷やす
わかき日なれや、ほのかに
雪ふる、それも歎かじ。
 

25


夜ふけてかへるふしどに
かをるは酒か、もやしか、
酒屋男のこころに
そそぐは雪か、みぞれか。

 

 

          青空文庫

 

 

ホンニサイバ手で流す・・・・・意味が分からん

もやし・・・・何か特別な意味があるのかな

 

一種の酒造り唄?みたいだ。

でも こんな詩好きだネ。

 

 

 

今朝はビックリ

霰が降ってきた

けれど

すぐに溶け 消えた

写真では花びらが散っているみたいだ。

 

 

 

海月