赤足袋
肩越しにうかゞふ子らに、
沙彌が眼はなべて光りぬ。――
日の一時、水無月まなか、
大なる鐃ひびき、
亡者めく人びとあまた
香爐焚き、棺衣めぐり、
群れつどひ、兩手あはせぬ。
長老は拂子しづしづ
誦經いま、咽び音まじり、
廣澄みぬ。――七歳の我は
興なさに、此時膝に
眼うつせば、紗の服がくれ、
だぶだぶの赤足袋。――をかし、
髯づらに涙ながれき。
『南無阿彌陀。』――沙彌が眼光り、
拂子ゆれ、風湧く刹那、
一齊に念佛起り、
老若も、男女も、子らも、
赤足袋も、咽ぶと見れば、
層高の銅拍子、――あなや、
われ堪へず、――笑ひくづれき。
沙彌
鐃
ほっ‐す【▽払子】
読み方:ほっす
《唐音》獣毛や麻などを束ねて柄をつけたもの。もとインドで蚊・ハエやちりを払うのに用いたが、のち法具となって、中国の禅宗では僧が説法時に威儀を正すのに用いるようになり、日本でも真宗以外の高僧が用いる。
ど‐びょうし ‥ビャウシ【銅拍子】
〘名〙 (「とびょうし」とも) 小型の銅鈸(どうばち)
どう‐ばち【銅×鈸/銅鉢】
調べるだけで疲れました
でも勉強になります
挨拶
祭の日、美くしき人も來ましき。
稚き女の友もあつまりぬ。
あるは、また、馬に騎りて、
物むつかしき武士の爺も來ましき。
樂しかる祭なれども、
われはただつねにおそれぬ。
祭の日、むつかしき言のかずかず
挨拶ひ、父は笑ましき、
禿頭するするとかきあげながら――
われもまた爲ではかなはじ、かのごとも大人とならば。
樂しかる祭なれども、
われはただつねにおそれぬ。
あかき林檎
いと紅き林檎の實をば
明日こそはあたへむといふ。
さはあれど、女の友は
何時もそを持ちてなかりき。
いと紅き林檎の實をば
明日こそはあたへむといふ。
林檎はそのころ チョコレートのようなものっだたかな?
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