こんにちは。行政書士もできる往年の映画ファンgonzalezです。
訪問ありがとうございます。
映画史上大いなる名作との誉れ高き『天井桟敷の人々』。
1980年頃、リバイバル上映されるということを「ぴあ」誌上か何かで知り、北関東の田舎町から都内まで勇躍出掛けた高校生。インターミッション入りで嬉しかった。
しかし、観終えての感想はと言うと・・・。
*4K修復verDVD*
『天井桟敷の人々』 Les enfants du Paradis (‘45仏) 190分
梗概
1820年代パリの犯罪大通りで俳優フレデリック(ピエール・ブラッスール)は、謎めいた女性ギャランス(アルレッティ)をナンパするも不成功。彼女は悪漢ピエール(マルセル・エラン)と交友があり、彼の窃盗の濡れ衣を着せられるが、すべてを目撃していた無言劇役者バチスト(ジャン-ルイ・バロー)の機転で冤罪が晴らされる。感謝するギャランスに心奪われるバチスト。紆余曲折を経て同じ舞台に立つ三人。だが、ギャランスは又もや冤罪の危機。仕方なく日頃言い寄って来る伯爵に助けてもらう。
その後、バチストは一座のナタリー(マリア・カザレス)と結婚し、男児をもうけ、ギャランスは伯爵夫人に収まる。二人は偶然再会。燃え立つ感情。伯爵はギャランスが思いを寄せる男がフレデリックと誤解。だが、ピエールがバチストとギャランスは両思いであることを暴露。次の日、ピエールはトルコ風呂で伯爵を刺殺。ギャランスはバチストの息子と言葉を交わし、喧噪の中去ってゆく。「ギャランス!」と叫び追いかけるバチストを後にして・・・。
そりゃあもう期待値MAXである。キネマ旬報のランキングで1位に選出されたとか言うではないか。明確な評価判断基準が確立されていない身には、水戸光圀の印籠のように畏れ多くも有難い指標となった。
どれだけ素晴らしい映画なのか。しかも仏蘭西製だという。嗚呼、早くこの目で確かめたいものだ。と、熱に浮かされたような心情である。ワクワクしつつ都内の劇場へ駆け付けた。
「・・・」。場内が明るくなってちょっと呆然とする十代。
どこがどのように高評価へと結びつくんだろう。単に仏蘭西のエスプリ漂う色恋沙汰を描いた映画ではないか。困惑する十代。
いやいや。でもやはりここは先生方がおっしゃるとおりの名作なんだろうな。と思うことにした。そうでもしなければ心の決着がつかないではないか。
*トリックスターのジェリコとバチスト*
往復4時間、3000~4000円かけたうえ、鑑賞するにも1500円くらい支払ったかもしれない。パンフレット代と飲食代もかかっているし。
でも、どこが素晴らしいのか理解に苦しみ、当然ながらモヤモヤ感は付きまとい続けた。歳を重ねても得心できないオヤヂ。
今ではDVD化され近所でも借りられるし、自宅に居ながらでもネットで観られたりもする。わざわざ往復200Km超の移動など今は昔。
*バチストとギャランス*
ある日、それならば、と思い切って長尺の本作を観直してみた。ちっとは感性も磨かれたのではなかろうか。こちとら伊達にボーっと生きてきたわけではないのだ。観た。
だがしかし、評価が大逆転とかするわけでもなかった。
何よりもヒロインの老け顔は最後まで違和感がぬぐえなかった。
ただし、昔とはちがうこともある。
まず、中途で退屈することは無く、大変面白く観終えることができた。
エンディングが切なく思えた。当時よりも余韻が長く感じられる。これを感動というのか。
そして単なるメロドラマではなく、人の生き方を描出する人間ドラマであろう。と理解した。
*すっぴんのバチストとギャランス*
あとは、ちょっと思いつかない。が、あの頃から感心していたこともある。
例えば、製作されたのはナチス占領下という歴史的事実。ヴィシー政権下で、しかも物資も乏しい疲弊した時代だろうによくぞこのような物量夥しいメロドラマが撮れたものだ。戦意高揚とは程遠い内容ではないか。時局にそぐわず全然ポリティカリーじゃないし。
なるほど、さすが第二次大戦前にシネマテーク・フランセーズを設立したお国柄だけあるなあ。と、感じ入ったものだ。
それとか、パントマイム役者は昔も今もマルセル・マルソーしか知らないが、主役のジャン-ルイ・バローのパントマイムも素晴らしいと思いもした。
まあ、それであっても世界的な高評価というのにはついていけなかったのではあるが。
若い頃は、こんな風に一種のカミングアウトはできなかったろう。あのような名作がわからないとは、などと嗤われそうで厭だった。
今はもう馬鹿だと嗤われようが軽蔑されようが一向に構わない心境に至ったので、こうして永年の心の屈託を開放してしまえるのは清々しくて気持ち好い。
再見したところでただ一つ、深読みすることがあった。
主役の一人悪漢ピエールは、自分を侮辱した伯爵を名誉にかけて刺殺。潔くお縄を頂戴すべく、その場で自ら邏卒を呼ぶシークエンスである。
翻って制作者サイドの祖国はと言うと、今はナチス・ドイツに蹂躙されていても臥薪嘗胆、仏蘭西人の名誉にかけて必ずや一矢報いようではないか。みたいな気持ちが、誇り高く男らしいピエールに投影されているような気がしたのだが。遠からずとも近からじか?
ちなみに、当時ラグビー部のくせにヴィスコンティに傾倒している学友もこれを観たらしく、しきりに「ギャルランス!ギャルランス!」と、激烈な巻き舌で真似ていた。全然仏蘭西語とは似ても似つかぬ発音で。
昨年、この地元でも4K修復版が上映されたが、ついに観に行くことはなかった。
まあ、そんなことで映画史上屈指の名画と呼びならわされる『天井桟敷の人々』だが、残念ながら個人的な評価は二度目にしても高まることはなかった。と、申し上げたい。
本日も最後までお読み下さりありがとうございました。
*天井桟敷の庶民たち*
監督:マルセル・カルネ
『北ホテル』『悪魔が夜来る』『嘆きのテレーズ』
脚本:ジャック・プレヴェール
『霧の波止場』『悪魔が夜来る』『やぶにらみの暴君』
音楽:ジョセフ・コズマ
『大いなる幻影』『夜の門』『やぶにらみの暴君』