こんにちは。行政書士もできる往年の映画ファンgonzalezです。
訪問ありがとうございます。
よくよく考えてみれば十二支の動物たちを扱った映画というものが世間にはたんとある。
丑(牛)なら『黒い牡牛』(56)。巳(蛇)なら『アナコンダ』(97)。午(馬)は『ワイルド・ブラック/少年の黒い馬』(79)。申(猿)では『キングコング』(33)。亥(猪)だったら『もののけ姫』(97)などなど。
そこで、柄にもなく今年の干支を選んでみたよ
『ウイラード』 Willard (‘71) 95分
梗概
旧い豪邸で母親と二人暮らししている内気な青年ウイラード(ブルース・デイヴィソン)は、今は亡き父親が経営者だったもののマーティン(アーネスト・ボーグナイン)に乗っ取られてしまった会社に勤務している。マーティンからのハラスメントに耐える日々だ。
ある日、彼はネズミ退治を頼まれたものの殺せずに飼育し、繁殖したネズミたちを調教し始めた。中でも、白ネズミをソクラテスと名付け寵愛。黒ネズミをベンと命名。勤務先にも連れて行くようになる。が、隠していたソクラテスが見つかってマーティンに殺される。ウイラードは復讐を決意。ベンを筆頭に数百匹のネズミを放ち、マーティンを襲撃させる。
ネズミと言えば、世界中で愛されているキャラクターのミッキー・マウスは外せない。『蒸気船ウィリー』(28)という短編アニメーションでデビューしたネズミである。
彼はマウスなので可愛い系だろうが、『ウイラード』の方は恐らくラットにカテゴライズされるネズミだと思われる。こっちは嫌われ系だ。
『吸血鬼ノスフェラトゥ』(22)でも描かれていたが、ラットはペスト菌を媒介する小動物として恐れられている。
『エクスタミネーター』(80)ではチンピラを拘束して、生きながらラットに喰われる刑に処していた。
野坂昭如の短編小説「死児を育てる」(新潮文庫『アメリカひじき・火垂るの墓』収録)においては、主人公が戦時中に二歳の妹の死に直面した様が描かれるが、衰弱した妹は土蔵の中でラットに喰い殺されたのだ。
そんなラットの群れが人間に押し迫るとあってはもはや座りションベンするほどの恐怖心に駆られるのもむべなるかな。それが本作『ウイラード』。
タイトルは人間の主人公の名前だが、子どもの頃はその響きが不気味に思えてなおさら興味がわいた。『恐怖の報酬』(77)の原題名ソーサラーと双璧か。
だが、当時のジャンル分けでは動物パニック物なんだろうが、全編貫くのはヲタッキーなウイラードの日常ドラマで、ネズミたちが暴れ回るシーンは実に少ない。
それに、暴れるといってもそれ自体は細かなカット割りで素早く見せるだけで、『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』(99)のスカラベ襲撃のような壮絶さは皆無。
人に襲い掛かる場面も、カメラのフレームの外から人をめがけて放り投げている感じすらある。
とは言え、相手は嫌悪感催すラットである。それも複数。そんなものが体に飛びついて来るのだからそりゃもう大慌て。変なビョーキを感染されたらヤだなあ、噛まれたらゾンビみたいになりそうでヤだなあ。とパニクり必至。
当時は我邦の家庭にもネズミが出没する割合も高かったろうから、これを観てちょっとしたネズミ恐怖症に罹患する人もいたんじゃなかろうか。
ただし、ウイラードとネズミとの交流は心温まるものがある。実際、単体ならネズミたちも愛らしい(群れるとちょっと怖くなるが↓)。
でまあ、ウイラード青年は現代におけるヲタク気質を見事に先取り描出している。今の方が共感しやすい状況ではないかと思う。
『鳥』(63)と類似の母なる超自我の存在。一人っ子。いじめ。対人スキルの欠如。自閉的。全能性を有する自分だけの世界を築きあげる独自的支配者。等々・・・。
そんな内向きの記号に満ちた青年像である。よって、丁寧に描かれる彼の日常自体にも興味を持たれる人もいることだろう。
さらに興味深いのは、製作年を加味して考えると、
白ネズミ・ソクラテス=白人・知的・ひ弱。
黒ネズミ・ベン=黒人・勇猛・強者。
弱い白ネズミの死=白人の死。
白ネズミを優遇する白人主人公=白人支配層。
白人主人公と立場が逆転するベン率いるネズミたち=黒人(ブラック・パンサー?)。
これすなはち黒人による革命を戯画化。
というような図式が透けて見えると言ったら穿ち過ぎか。
しかし『猿の惑星』(68)が黒人白人の逆転した世界を提示していたように、本作もブラックパワー全開の時代性とマッチしているように思えるのだ。何しろ、ブラックスプロイテーション映画全盛期に突入した時代である。
同年『スウィート・スウィートバック』と『黒いジャガー』というメルクマール的作品ツートップが公開されているし。
どうしたってベトナム戦争と女性解放運動とブラックパワーは避けて通れない時代。本作も米国社会状況に鋭敏に反応する聖林映画の申し子ではなかったか。
それを思うと単なるB級ホラー映画として片づけるわけにはいかなくなってくるだろう。
2003年にリメイクされたそうだが、こちらは未公開のようである。
ウイラードを演じるのはブルース・デイヴィソン。ご存知『いちご白書』(70)の主人公だ。
彼を溺愛する母親に扮するのはエルザ・ランチェスター。『情婦』(57)でゴールデングローブ賞助演女優賞を授与された。その監督チャールズ・ロートンの妻である。
*IVYか?三つ釦スーツにBDシャツ、ブルックス製と思しきタイ*
ウイラードの同僚は若かりしソンドラ・ロック。こちらはクリント・イーストウッドの愛人だったのは周知の通り。
アーネスト・ボーグナインが憎まれ役をそのまんまの貌ではまり役。
今観れば小ぢんまりした作品だが、制作側のヤル気が伝わって来る創意工夫が随所に見受けられる。
殊にネズミの演技指導は素晴らしい。犬と違って苦労も多かったことだろう。
ところで、続編『ベン』(72)も製作される。
こちらは一転してベンと白人少年の友情を軸にしたお子様向けみたいなぬるさがある。が、ネズミの群れはより頭数を増していた。
在りし日の幼きマイケル・ジャクソンがハイトーンで歌唱するエンディング曲「ベンのテーマ」が日米でヒットしたのも懐かしい。
*地下室にネズミーランド開園!*
監督:ダニエル・マン
『八月十五夜の茶屋』『バターフィールド8』『電撃フリントGO!GO作戦』
音楽:アレックス・ノース
『欲望という名の電車』『スパルタカス』『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない』