こんにちは。行政書士もできる往年の映画ファンgonzalezです。
訪問ありがとうございます。
繰り返すようだが、人物の入れ替わりとタイムトラベルといふ素材はそれだけで既に面白いものである。映画化の際には調理の仕方によって更に美味くなる。
合わせ技の『君の名は。』(16)。タイムパラドクスなら『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)や『ターミネーター』(84)等々。数え上げたら枚挙に暇がない。ジャンルはSFやファンタジーが多いだろう。
これもその一本。
『ジェニイの肖像』 Portrait of Jennie (‘48) 86分
梗概
1934年の冬。NYの売れない画家イーベン(ジョセフ・コットン)は画廊のオーナー(エセル・バリモア)に、腕はあるものの今一つ何かが欠けていると指摘される。その帰り道、古めかしい装いをした少女ジェニイ・アプルトン(ジェニファー・ジョーンズ)と出会う。
帰宅するや早速彼女のスケッチを描き、画廊に持ち込むと25ドルで買い取ってくれた。
その後、少女だった彼女は出会うたびに急成長している。しかも彼女の話す内容は20年も前のこと。不審に思いながらも彼女の肖像を描くことに没頭する。遂に彼女の立会いのもと完成させたもののジェニイは消息を絶ってしまう。二人の再会は運命の10月5日だった。
原作も映画も決して傑作の類ではなかろう。しかし、観る者を惹きつけてやまない魅力が確かに、ある。
ほくとさんのブログ記事でも言及されていたが、『ある日どこかで』(80)と通底する、時を超越したラヴロマンス。とでも言ふべき物語である。
ここで両者の共通事項を挙げてみると・・・。
存命中の作家による原作に基づく。
現代の男性が過去の女性と恋に落ちる。
二人の想いは現世では決して成就しない。
悲恋のようでもあるが、どこか爽やかな余韻を残す。
時代を超えて女性のポートレイトが訪問者により鑑賞される。・・・といったところか。
自分は中学時代にTV放映の予告編を観たことがある。何だか荒れ狂う海とそこに被さるドラマチックなナレーション「(次週は)ジェニイの肖像をお送りいたします」といふ記憶が強烈に残った。本編は観たかどうだかすら覚えていない。
妙に気掛かりだったので四半世紀以上の時を経て図書館で借りたDVDを鑑賞したうえ原作本も借りて読んだ。その時は子どもの頃と異なり確かな手応えを感じた。心に染み入った。観なおして良かった。と心底思ったものだ。
ジェニファー・ジョーンズの実年齢など気にしてはいけない。主人公と初対面の時は、あくまでも十代の少女なのである。『愛の嵐』(74)のシャーロット・ランプリングの少女時代と比すればモノクロフィルムだけにまだ見られる。
そんな彼女が登場するたびに美しい大人の女性へと変身していくさまが見どころだ。実に綺麗に撮ってもらっている。カメラと照明が大いに貢献。お約束のソフト・フォーカスもばっちりだ。
公園やスケート場でのジョセフ・コットン扮するイーベンとジェニイの逢瀬(?)は『シベールの日曜日』(62)を連想。今ならもっと危ない人物と誤解されそうであるが、ジェニイの姿は彼にしか見えないといふ設定ゆえ安心だ。『シベール』のような悲劇は起きない。
しかし、若き画家のミューズとなり、時代を超えて人々を魅了する名画のモデルとなったジェニイが、どんないきさつで、どのようにして彼の元に現れたのかは説明されない。それが彼女の意思に基づくのか否かも定かではない。しかも、最後にランズエンドで出会えたのも不思議と言へば不思議だ。これも気にしてはいけないのだろうね。
『ある日どこかで』などがタイプの人ならきっと面白く観られるんじゃないだろうか。
ちなみに、悪役は不在。クリストファー・プラマーのように二人の間を引き裂くような役回りの人物は出てこない。代わりに、当事者には制御不能なタイムトラベルが、時間を司るギリシア神話の神クロノスの気まぐれの如くに二人を翻弄する。
対して善男善女ばかりの脇役が大変よろしい。主人公の脇を固める俳優陣がイケてると作品の質もぐっとアップする。本作もシルバー世代が好い感じだ。
*カフェのアイリッシュ親爺*
画家の良き理解者、画廊のオーナーを演じるオスカー女優エセル・バリモア。
そう、知る人ぞ知るバリモア一家、乃至はバリモア三兄弟として知られる高名な女優。この人の品のある高貴な存在感が重石となる。どことなくマギー・スミスかヴァネッサ・レッドグレイヴを思わせる顔立ちが素敵だ。弟のジョンはドリュー・バリモアの祖父である。
画廊の共同経営者に扮するはセシル・ケラウェイ。二度オスカー候補にもなった名脇役。
バリモアと対照的にふくよかな容姿とちょっとしたコメディリリーフ的ポジションで和ませる。だが、エベルに鍵となる助言を繰り返す重要な役どころでもある。
そして修道女にリリアン・ギッシュ。あのレジェンドがまだまだ若くて驚きだ。
BGMにはクロード・ドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」「アラベスク第1番」(「月の光」もあったかな?)などの楽曲群が用いられていて効果的だ。
効果と言へば、しばしば画面がキャンバス地に描いた絵画のようになったり、パートカラーを使用したり、大嵐や高潮の特殊効果など力が入っている。アカデミー賞受賞はスタッフにとって大いに励みとなったことと思われる。
さて、本作は切ないながらもフランク・キャプラの映画のように心温まる作品である。劇中でメトロポリタン美術館に展示されたジェニイの肖像の如くに、時を超え年代を超えて鑑賞されていくフィルムなのだろう。
本日も最後までお付き合い下さりありがとうございました。