重量級オールスター『ナイル殺人事件』 | 徒然逍遥 ~電子版~

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こんにちは。行政書士もできる往年の映画ファンgonzalezです。
訪問ありがとうございます。


英国俳優と知っただけで何となく格上に見てしまう自分なので、こんな映画には甚だ弱い。
『ナイル殺人事件』 Death on the Nile (‘78) 140分


言わずと知れたアガサ・クリスティの探偵小説を映画化。梗概は上手くまとめづらいのでパス。

ただ、タイトル通りエジプト観光旅行のナイル川に浮かぶ船舶の船室内にて殺人事件が発生。おのずと容疑者は限られてくる。ということだけ伝えておこう。


で、期待したいのは芝居上手な役者を観られるということ。英国俳優たちに大注目だ。
主役のエルキュール・ポアロに扮するはピーター・ユスチノフ『スパルタカス』(‘60)と『トプカピ』(‘64)でアカデミー助演男優賞の受賞歴あり。


TVドラマのポアロ(デビッド・スーシェ)しか知らない人には違和感あるかも。やや恰幅が良すぎるきらいがある。

『オリエント急行殺人事件』(‘74)のアルバート・フィニーも似合う気がするが、メイクに頼って似せた感が強い。

その相方となる軍人がデビッド・ニーヴン。上品な身のこなしと着こなしが素敵である。

『旅路』(’58)にてオスカー受賞。

両人ともに英国俳優。

 *P・ユスチノフとD・ニーヴン(右*
 

殺害される女性にはロイス・チャイルス『007ムーンレイカー』(‘79)でボンドガールに起用される。
その夫がサイモン・マッコーキンデール。絵に描いたように上品な英国ハンサムガイ。


上記二人にストーキングする女性がミア・ファロー。神経症的エキセントリックな容姿・言動で二人を脅かす。我々をもちょっとビビらせる。この三人を中心にドラマが進行。

 *左)M・ファロー*
 

そして以下の女優陣が凄い。
ホラー映画の看板女優的存在へとシフトしたベティ・デイヴィスがここでも白塗りお化けの如き容貌で怪演。


マギー・スミスが彼女の身辺の世話をするマッサージ師を演じる。いつも男装チックな衣装で男前である。

『ジェシカおばさんの事件簿』で周知されることになるアンジェラ・ランズベリーがアル中っぽいスキャンダラスな題材を扱う小説家に扮し、オーバーアクトで気炎を上げる。

『ドリアン・グレイの肖像』(’45)、『影なき狙撃者』(’62)ではゴールデン・グローブ賞の助演女優賞を射止めた。

 *右)A・ランズベリー*
 

後者二人が英国俳優。舞台演技の影響がちらほら見えて面白い。


演技と言へば前者二人のコンビは見ものである。横綱級のB・デイヴィスにまだ若いM・スミスがすまし顔で渡り合う。
ご存じの通りデイヴィスは「ベティ・デイビスの瞳」(‘81)という歌まで作られるほど名の知れた人物(米国内9週連続1位)。聖林の名女優としてキャサリン・ヘップバーンと双璧だ。
彼女のキャリア初期の『青春の抗議』(‘35)『黒蘭の女』(‘38)でオスカー受賞。老齢期の『八月のくじら』(‘87)でもリリアン・ギッシュと名優競演を魅せてくれた。

 *B・デイビスとM・スミス(右*
 

一方スミスは最近ではTVドラマ『ダウントン・アビー』(エミー賞受賞)でまだまだ達者なところを見せつけた。『ハリー・ポッター』シリーズの猫に変身する校長先生と言ったら分かる人も多いのでは。

オスカー通なら『ミス・ブロディの青春』(‘69)での主演女優賞という経歴は押さえているはず。

ちなみに、『カリフォルニア・スイート』(‘78)でオスカー候補になり、英国から授賞式にやってきたが落選した女優を演じてまさかの助演女優賞受賞。というのはよく知られたホントの話。旦那に扮したのがやはり英国俳優マイケル・ケイン。贅沢な競演だった。


自分はこれがきっかけでマギー・スミス贔屓になって現在に至る。

A・ランズベリーの娘役のオリビア・ハッセーが美貌満開の趣きで色を添える。と言いたいところだが、あまり濃いめでないあっさりした印象の容姿なのでさほどのインパクトは残さない。

公開当時彼女のファンだったが、本作では彼女を堪能できなかった覚えがある。恐らく重量級の高齢俳優の間に埋没してしまったからだろう。


ジョン・フィンチがこの事件をきっかけに彼女と婚約する男性。ジェーン・バーキンが被害者のメイド役。と、この三人も英国俳優。


     *右)J・フィンチ*        *中央)J・バーキン*

 

そこで負けていられないのは米国俳優の脇役たち。
ジョージ・ケネディは善玉悪玉どちらもOKの汎用性の高さが売りだと思う。

スリーピース・スーツも作業着も西部劇の衣装も何でも似合う。ちょっとした上品さを醸し出せるし豪放磊落な豪傑感や腹黒い策士にもなれるところが凄い。『大空港』(‘70)以降エアポートシリーズ全作出演している(と思う)。

『暴力脱獄』(’67)でアカデミー助演男優賞ゲット。


ジャック・ウォーデンは独特の泥臭さが親近感を抱かせる。

『チャンス』(‘79)で米国大統領に扮したときもその容貌がいかにも田舎者じみており、どう見ても共和党だろう、みたいな感じで好演。

『天国から来たチャンピオン』(’78)や『評決』(’82)のように主人公を支える重要人物を演じさせると忘れ難い味わいを発揮する実力派である。

本作ではスイスの医師役だが、やはりあか抜けないおっさんみたいでコメディ・リリーフ的存在か。
個人的な好みに合致する御大お二人です。

 *左)J・ウォーデン*
往年の名脇役十傑選~男優篇

 

こう振り返ってみると何とも敬老映画みたいな趣きは否めないが、芝居を観る・見せるといった観点からするとヘビー級の重みを感じるものである。どことなく演劇鑑賞している雰囲気だ。


ジョン・ギラーミン監督が巧みな手腕で大物俳優の交通整理をしている。あの『タワーリング・インフェルノ』(‘73)を捌いているのでそこは手慣れたもの。
そしてニーノ・ロータの重厚な出だしのテーマが素晴らしい。サントラ盤もリリースされた。


 

アンソニー・パウエルが手掛けた衣装もさりげなく上手い。

例へばポアロのジャケットのショルダーに雨だれができているところなど、これがテーラーメイドであることを物語っている。衣食にうるさいポアロ像の描出だ。


作品自体は可もなく不可も無い手堅い仕上がりだが、ご紹介した通り見どころは英国俳優の競演である。余裕のある時にゆったりした気分で鑑賞してもらいたい。

正月映画として公開されたが、何故か地元の劇場では『ルパン三世』が併映。不思議な組み合わせだった。


本日も最後までお読み下さりありがとうございました。