『銀座の恋の物語』アクションするカメラ | 徒然逍遥 ~電子版~

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カメラがアクションしている!第一印象はこれです。多彩なカメラワークには驚かされました。監督は蔵原惟善。あの『南極物語』('83)の人です。

自分の中では、どーせいつもの青春モノかメロドラマだろうと期待値がかなり低めに設定していました。物語の展開に関して言えばほぼ当たりでしたが、意外や脚本と撮影には唸らされたんです。で、これから先の領域は、ネタバレ警報発令しときます。

 

 

物語は石原裕次郎演じるのは売れない画家という意表を突く設定。しかもポジティブで希望に満ちた快活な好青年。太陽族時代とはえらい違いです。浅丘ルリ子嬢はお針子。彼とルームシェアするジェリー藤尾は売れないピアニストで作曲家。劇中の鍵となる曲『銀座の恋の物語』のメロディの作者という設定。彼の住まいは銀座路地裏のアパート。まるでパリの屋根裏部屋の雰囲気です。

 

さて、カメラワークの件ですが、印象的なのはビルの谷間を走る裕次郎を真上から捉えるシーン。同時にカメラも運動し、まさにアクション映画さながら。別場面の同じアングルでルリ子嬢を真上から捉える時は、ややゆるやかな運動が繰り返されます。

 

三越屋上のネオンの下での二人の深刻なやり取りでは、見下ろしたり見上げたりと人の代わりにカメラが多彩な動きで緊張感を保ちます。

 

さらには交差点を手ブレしながら渡るカメラに至ってはヌーベルバーグ風。
などなど、この手の映画にしては珍しい意外な発見が多々あります。

 

一方脚本の構成もいい感じです。鍵となる幾つかの場面が必ず三回反復されます。

中でも秀逸なのは導入部過ぎた頃、裕次郎所有するピアノの玩具でルリ子嬢が『銀恋』を弾く場面です。この一回目の時点で彼女の記憶喪失を暗示する伏線が登場します。ネタバレですが、一つ音が出ないキー(鍵)があるんです。すなはち何らかの≪欠落≫≪記憶喪失≫を示唆し、今後のストーリー展開の基調をなす伏線が張られます。

 

二回目は行方知れずの彼女に代わり江利チエミ嬢がちょっと弾きますが、すぐに中断されます。何故ならこの曲は裕次郎とルリ子嬢二人のために、二人を結束させるためだけに機能する権能を有するものだから。

 

三回目は彼女が記憶無きまま何気なく、かすかに浮かぶメロディを弾いています。すると、ここで一回目の場面が活きてくることに…。そう、音が出ないキー!これが文字通り記憶の扉を大きく開け放つ≪鍵≫となるのです。ここで音楽と裕次郎が描いた彼女の肖像画がシンクロし、ドラマは一気に最高潮を迎えるのです。こうして最後には他の伏線も含めて全てがきちんと回収されていくのでした。

 

 

観て良かったと思わせる一編ですが、米映画『邂逅』('39)を元ネタにした、『めぐり逢い』の題名で二回リメイク('57/'94)されたモノをさらに和製リメイクした感あり。というより確信犯的にアイディア頂いたんでしょうね。

 

ちなみに、オープニング和光の時計台600で幕を開け、エンディング1900で終幕です。

あとは皆様ご自分の目でどの場面が三回反復されるか確かめつつ、昭和の銀座の恋物語を堪能して下さい。

 

さて、『銀恋』と言えばある一定の世代までのカラオケの定番デュエット曲でしたが今でもそうなんでしょうか?


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               *1962年 日活*