20年以上、愛用していたコートがついに擦り切れ着られなくなった。たまたま見つけて着ていた上着で高価な訳でもなく、ただ着やすさからいつでも身に着けていた。そのへんに買い物に行く時や東京へ行くときにも普通に羽織っていた。破れたなら繕えばいいけれど、20年を越えると生地も擦り切れて、どうにもならなくなった。着るものに無頓着な亭主からも「代わりを探した方がいい」と言われ、ついに昨日、娘の通院を終え娘を学校へ見送った後に、新しいものを探す旅に出た。ところが……

身体が大きいにも関わらず、気に行ったデザイン(今まで着ていたものの固執してる)限定で探すからなかなか見つからない。街中を4時間近く徘徊しても、候補になるものすら出会うことはなかった。落胆して帰宅して亭主に「擦り切れてもいい。これを着る」と言うと亭主は「青島コート M51で検索してみて」と。うわぁ……探していた上着がたくさん出てきた。

私は知らなかったのだが、私が探していたのは以前「踊る大捜査線」で青島が着ていたあのコートだった。ミリタリーものに若干、詳しい亭主には「M51」の名称の方が馴染み深かったようだ。色は今までのものとは違うが、形は限りなく近いのでこれで買おうかと思ったが値段を見て手が止まった。消費税と送料を入れると約2万もするじゃねーか!?主婦の2万ってうまい米が買えるとか、少しいい肉が買えるなんて夢が広がる。自分のもので2万ってのは胃が痛くなった。(娘のものや亭主のものは抵抗なく出すが)

「あのね。今までの上着って確か5000円しなかったはず。それを20年着倒したってすごいと思う訳。計算したら1年250円だよ。つーか、今までの方が絶対におかしかったんだって。これ買ってまたたくさん着たらいいと思わない?」

今までの上着、年間250円だったのか……モニターにうつる2万円の俗名「青島コート」を私はじっと見つめる。2万で買って20年着たら年に1000円。20分モニターとにらめっこした後、私は遂に購入ボタンを押した。ミリタリージャケットHOUSTON M-51パーカー モッズコートオリーブ買った。体調崩すくらい歩きまわって探しても見つけられなかったのに、自宅でネットでこんなに簡単に見つけられるなんて、改めて世の中、便利になったと実感した。お気に入りの黒のカーディガンに至っては21歳の時に買ったもので、入籍前に写した亭主との写真でも、それを着て映っている。

「どケチ」って思われるんだろうな、たぶん。大病するようになってから、特に服には固執しなくなった気がする。PCや本は人に渡すこともできるけれど、私のでかい服だけはゴミにしかならず増やしても仕方ないって思い始めてきづけば現在に至る。



上着を探しまわっている時に、こんなものを見つけた。

上着に金は渋るが、こんなものには躊躇わず金を出す。即買い。で、夜、これを被り亭主の部屋を訪問した。本当は深夜にしたかったが、心霊番組で動揺し心拍数を上げる亭主に深夜訪問したら、間違いなくパンツ1枚で外に飛び出す。なので、家の中がまだ騒がしい夜に決行した。うつ伏せで寝転んでいた足首を掴んで、振り向いたらこれ。普段、使わない動かないような顔の筋肉が動き、スティーブン・セガールに散弾銃を向けられたアウトローのような顔をしていた。

「それ……私を脅かす以外に使い道があるんですか?」と問われ「ない!」と元気よく答えると亭主は「服、20年も我慢せずに買おうね。こんなものを惜しみなく買う前に」と力強く言われた。
亭主も使いたそうだったが、どこかずれているこの男ならば「14日の土曜日」に被って出没しそうである。青島コート、届くのが楽しみ。