所用があってチワワ奥と札幌駅で待ち合わせをして、久しぶりに会った。相変わらず小物のセンスがよくて、目の悪い私にでも遠くから見てチワワ奥らしい色彩豊かなバッグですぐにわかった。取りあえずどこかに行こうかと相談、札幌ロフトに文房具を見に行こうと話がまとまって出発。

さて、ロフト到着なのだが、通いなれたロフトの雰囲気が何か違う。とにかく何かが違う。何と言うか、ジャニーズのコンサート会場にいる「追っかけ」と呼ばれるお姉さん方のような集団が何グループかできて、大きな旅行カバンを引っ張りながらたむろしている。手にはふなっしーのグッツが。見ればロフトでは今日からふなっしーのグッツ販売のコーナーが設けられていて、カラフルな品が多数揃っている。「梨、来るんだろうか?」「気配するよね?」私はある集団に声をかけた。「ふなっしー明日から札幌で仕事なんです。で、ここでは今日からグッツ販売だし、だったら今日はここへ来るはずなんです」彼女は恍惚な表情のまま答えてくれた。

チワワ奥に「核心はないそうで、でも、彼女たちは来ることを信じて東京や千葉から来たんだって」と伝えると絶句していた。決して馬鹿にしている訳ではない。梨の行動予定を把握して、そこから梨がどう行動するのかを読んでの核心のない先回りにをしても、笑顔を絶やさない彼女たちに圧倒されたのだ。日本政府はこの様なご婦人たちをもっと大切に扱うべきだと私は思った。有事の際には素晴らしい参謀になれる器の状況分析力と判断力持ち合わせた彼女たち。梨の行動なんて防衛大のエリートでもわからないだろう。

あてがないと聞かされながらも、結局は「来るかも知れない」の言葉に私とチワワ奥も乗っかってそれから私たちは2時間を優に超える時をロフトの売り場でウロウロしながら待つことを選択した。

ロフトの人たちは黄色の制服なのだが、その黄色が関係者オンリーの出入り口から出入りするたびに追っかけの熟女たちは熱狂的な声を上げる。漠然とした時間内にそんな光景が数えられないくらい繰り返される。しかし、私とチワワ奥は次第にインカムをつけた店員さんが増えだしたことや、地元放送局が小さなカメラを持参して、客に気づかれないように撮影を初めていたことや、SPらしき人物まで登場したことに「来るね、来るね」と疑念が核心に変わり盛り上がり始めた。そして1時半を過ぎた頃だった。事態はついに動きだした。



梨は荷物搬送用ワゴンに乗ってやってきた。一番に気付いたのが実は私で「来た」と呟いたとたん、周囲にいた追っかけさんたち多数が反応、黄色い梨を黄色い声で出迎えた。

私たちもかなり早く来ていたはずなんだが、歓声と共に追っかけファンと、梨に気付いた一般客が事情に気付いてすぐさまスマホを取りだし駆け寄り、辺りは一瞬にして人の波。私とチワワ奥はいつの間にかかなり後方に流された。私もチワワ奥も長身なので、間にどれだけ人が割り込んで来ても、背の高い者は後ろに下がって見物の邪魔をしないって鉄則が身体に染み込んでいるから、腹も立たずに一緒に撮影した。音声は梨の中から聴こえるあの地声だけ。マイクも何もないのであまり聞こえなかった。前方の追っかけさんとは、会話のキャッチボールをしていたが、後方の私たちには何を話したのかは全くの不明だった。
梨はあの着ぐるみの状態で必死にサインをしていたと後で知った。あの手でマジックを持って、視界の悪い状態でサインって難儀してたんだなと可哀想になった。『札幌のみんな、ありがとなっしー♪ ふなっしー ヒッハー 2016,4,28』ヒャッハーじゃないのか、梨?ヒッハーは出産時の呼吸法じゃないのか?

予定外の梨との遭遇に、チワワ奥と興奮しっぱなしだった。梨汁はそこにいた多くの民を幸せにしたことは確かだった。