重なった視線があまりに辛すぎて、思わず薫は目を逸らせた。逸らせた先には整えられた机があり、その上に置かれていたのはあの万年筆。見知らぬ誰かから敏子を通じて託され、自分を犯す道具ともなった万年筆が綺麗に磨かれ置かれていた。見知らぬ誰かと思っていたことの方がまだ幸せだった。その本来の持ち主が日向だったことが薫を更に絶望へと追いやる。視界に入るすべてが揺らいで見える。その揺らぎの中のあるものに薫の焦点は定まる。自分に残された最後の気力と力を振り絞ると、薫は勢いをつけ毛布を跳ね除けると同時に自分が寝ていたベッドの横に立っていた日向に飛び掛かった。薫の不意打ちに日向は薫に押し倒されるように背中から床に倒れた。震えながら日向の腰を弄り、薫が手にしたのは日向が身に着けていた小型拳銃。両手の中に納まるほどの小さな銃を薫はガタガタと震えながらも必死にトリガーに触れようとする。しかし、震える手は薫の意思通りに動かない。自分の腰に馬乗りになって必死に銃を構えようとする、殴られ人相も変わってしまった薫の姿に日向は仰向けになったまま薫の手に自分の手を添える。温かくて大きめなその手に覆われ薫は息を飲む。日向は静かに薫の指をトリガーに触れさせると、銃口を自分の心臓部分にあてた。
「そのまま一気にトリガーを引け」
日向の言葉に驚き我に返った薫は涙をこぼしながら叫んだ。
「違う、違うっ!あなたを殺そうとしたんじゃない。自分は……姉に、会いに……行こうと……」
日向は動じることなく言った。
「お前がどうしても姉上に会いに行くと言うのなら、私も同行しよう。ただし、私を先に撃て。お前の力になれなかったことを、私が先に行って姉上に詫びなければならないからな。確実に私を仕留めてからお前は来るんだ。だが、死んだ私を見て気が変わったのなら、そのままお前は生きろ。そこの引き出しの中に私の遺書がある。いつ死んでもいいようにと用意してあった。それを見せて私が自害したと言えば、誰もがお前を疑うことはないだろう。いいな。さぁ、撃て、薫」

2016,1,6