この日を境に薫は、生まれて初めて生きることに喜びを見いだせるようになった。昇進した訳でも、給金が上がった訳でもなく、陰では相変わらず意地の悪い上官たちに目をつけられ、痣が出来るほどの教育という名の制裁も受けてはいたが、遠くであっても日向の姿を目にすると全ての辛さ苦しみをも忘れられた。自分とは階級も違い会話などする機会はあれ以来、皆無ではあったが、日向の中に確実に自分の存在があると思うだけで薫は満足だった。翌月のある日、一日の成すべきことをすべて終えた薫が部屋へ戻ると、机の上に小さな菊の花束が置いてあった。その日は姉、敏子の祥月命日であり、薫はその菊の花をわざわざ持参したのが日向であることにすぐに気づいた。
「敏子姉ちゃん、日向大佐がこれを……」
純白の菊の輪郭が次第に滲むようにぼやけて見えてくる。最愛の姉を亡くしてまだひと月しか経っていないというのに、日向の心遣いが嬉しくて。手にした菊の花びらが弾かれるように小さく揺れる。薫の涙を受けながら。始めは姉への心遣いへの嬉し涙だったが、花びらが揺れるたびにその涙は苦しく切ないものに変わっていく。敏子を亡くしたことは辛いのに、日向のことを思うとそれ以上に辛く胸が痛む。自分が日向に対して持ってしまったその気持ちに気付いた薫は、菊を手にしたまま思わず天を仰いだ。
「姉ちゃん。俺、日向大佐のことが……」
薫が生まれて初めて好きになった人は、あまりに身分の違いすぎる同性だった。菊の花は薫の涙を受け儚く光る。


 日向の思いのこもった菊の花を活けようと、暗い人気の絶えた炊事場に立ち入った時だった。
「生ぬるい仕事をしていると、女々しい趣味に走るんだな」
背後から聴こえたのは、蔑む思いのこもった嘲笑交じりの言葉。振り返ると闇の中には、いつもの五人が立っていた。
「帝国軍人が花などに現を抜かすなど、言語道断だ!」
言葉と同時に、薫の手から奪われた花は無残に床に叩きつけられた。驚き言葉を失う薫の前で、男たちはその花を嗤いながらなおも踏みにじる。
「やめてください!これは亡くなった姉へ手向ける花なんですっ!!」
逆らうことが許されない中、薫は菊を踏みつける無慈悲な上官の足にしがみ付き懇願した。踏みつけられる菊を護ろうと薫は自らの手を差し出し男たちに踏まれ続けた。白い菊は薫の血を受け朱に染まっていく。
「その姉ってのは、遊郭で男相手に稼いでいた阿婆擦れだったんだってな」
自分の手を踏みつけながら、男の一人が薫の頭上から冷水のような言葉を浴びせた。
「この基地にお前の姉と寝た男ってのを集めたら、一個小隊どころか中隊くらい編成できるんじゃないのか!?」
踏まれた菊はもう、花の片鱗もなくなっていた。まるで日向の存在までも踏みつけ消し去るように。死を選ぶしかなかった不憫すぎる姉を愚弄し笑い、日向の思いのこもった花までもを踏みにじられ、薫の我慢は限界を超えた。
「謝れっ!姉ちゃんに謝れっ!!」
踏まれながらも薫は男たちを睨むように仰ぎ見ながら、怒りを込めて怒鳴った。
「お前、日向大佐に目を掛けられてるからって、生意気になったんじゃないのか?」
男は笑いながら薫の髪を鷲掴みにすると、その頬を思い切り殴った。
「売女の弟なんだろ?だったらその弟らしくお前もお国のために命懸けで働く俺たちに尽くしてみろよ」
次の瞬間、鳩尾を思い切り蹴り上げられた薫は、意識を失った。辺りを見回し人気のないことを確認した男たちは、薫を背負うと離れの倉庫へ消えた。そこには薫の血に染まる無残に散った菊の花だけが残された。


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この先は、pixivと本家サイトで。18禁部分を抜けたらまた、こちらへ書き込みします。と、書きながらもpixivと本家にベース作ってないや。ありゃりゃ……
数日後に高校入試を控えた娘の四者面談を控えていて、こんなことをしている場合じゃないと心のどこかで思ったりもしてるけど、親が勉強してどうこうって訳でもねーしなぁ。「もう、どうにでもなぁれ!」って魔法かけちゃうわ。

ふと思ったのだけれど……
自分が娘と同じ年齢の頃、横溝正史ハマってとにかく本を読み漁ってたんだよね。言葉遣いや表現、漢字など中学三年には難しかったけれど、古谷一行の金田一を見たら、どうしても原作を読みたくなってひたすら読んでた。あと、SF小説にもハマってたな。タイトルも忘れたけれど、ワクワクしながら読んでた。

その後、かなり経って整形で入院した時、同室の患者が置いていった赤川次郎にハマって、入院中に20冊は確実に読んだ。主に三毛猫ホームズシリーズだった。腎臓で東海大付属病院に入院した時は、病院の中に本屋さんがあって驚いた。で、「俺の空 刑事編」全巻買って読んで読んで(マンガ以外も読んだ)、退院時、札幌へ送って更に読んだ。札幌で内科で入院した時、友人が少年ジャンプの「シェイプアップ乱」の当時4巻まで出ていたものを買ってきてくれて、死ぬほど笑った記憶もある。マンガだから、小説だからって関係ない。その時、自分を助けてくれたり励ましてくれたりしてくれた本って今も自分の中に確実に息づいている。

もしもタイムスリップ出来て、子供の頃の自分と話が出来るのならば私はきっと言うだろう。
「親はとにかく糞で生きている限り苦しみの元になる。そこから逃れるには、とにかく勉強して親元から離れろ。泣かれても叫ばれても逃げきれ。勉強しなきゃ、未来は拓けないぞ。あと、本を読むんだ。何でもかんでもジャンルに拘らず読め、ひたすら読め。知識と教養、そして読書の量は確実に自分の人生を豊かにしてくれるから。あと、蛇足だが今、テレビで再放送しているモノクロの“おそ松くん”。お前が年金の心配をする頃に、カラーで再び流行るぞ。後に娘が生まれて話のネタにするのに、一度くらいは真剣に見たほうがいいかもな」と。