一昨日の夜9時15分過ぎのこと。
キッチンの窓から外を眺めていたら、北東方向仰角45度くらいの場所に星が煌めいていた。周囲は街灯などで明るくて星の観察には不向きである。そんな中で唯一、煌めく星に私はしばし見入った。が……何か違和感がある。悪い目を凝らし、そして亭主の叔父の形見である高価な双眼鏡を手にして、その違和感の元たる星を捉え改めて見る。星は大きく瞬いていた。赤と緑(青)色を交互に点滅するかのように。
いや、恒星が赤や緑にチラチラ変化するって絶対にありえないんだ。ベテルギウスの赤やリゲルの白(青)ってのは表面温度の関係でありだけど、瞬きながら色が刻々と変化するってあり得ない。
取りあえずテスト勉強してた娘を呼び出した。娘に見たままを伝え、娘にも目視してもらったが、彼女の目にも確かに赤・緑と色が変化しているという。明るすぎるせいで、他の星は見えず、その星がどの星座の何の星かも確認できぬままその日は疑問いっぱいのまま寝た。
翌日、亭主がいたので見せようとするが曇りでそれが見えない。話してはいたが亭主はその話を信用はしていない感じだった。亭主に不信感を持ったまま、更にはレスの件まで思い出して腹が立ったまま寝た。
さて、今宵。一昨日と同じ時間、同じ場所にその星らしき輝きはあった。私がみた赤と緑・青などの色の変化を繰り返しながら。亭主は目の当たりにたものの、驚いたらしく色々と観察したりネットで調べたりしだした。頭の弱い夫婦+星なんてどうでもいい娘が得た答えは……

まず、この星はこと座のベガだった。で、この赤や緑・青の色の変化、実は「レイリー散乱」という現象。空気中に浮かんでいる細かな塵によっておきる現象であり、波長の長い青はよく散乱され、波長の長い赤は散乱されにくい性質があって東や西の方角の大気層を通過していく途中で散乱されて赤い部分だけが届き赤みが増して見えるということらしい。ベガは高度が低くなるにつれて空気の層が低くなり……と、専門サイトじゃないから端折るけれど、見えていた不思議な現象にはちゃんと科学的天文学的な根拠があったって知って家族で嬉しくなって久々に興奮した。

Hを空気の厚さ、Aを星の光が届く距離、θを高度ととると
Sinθ=H/A
A=H/Sinθ
H=1とすると
A=1/Sinθ
となり、天頂に対する厚さの比が出る……

って話になったら、娘が面白そうだと顔を出してグラフを見ながら、数字を入れて遊んでた。さすがにテスト真っ只中なので、テストが終わったら理科の先生に聞いて知識を深めてこいって言った。


夜の空、当たり前のように星は瞬いている。だから、それが視界に入っても人は何とも思わないだろう。そこに「当然である」って先入観があるから。でも、その星の光や瞬きが明らかにおかしくて、私が騒ぎ立てて何日もかけて家族を巻き込んで私たちは『レイリー散乱』という言葉を知った。レスでもこの亭主相手に頑張りがきくのは、私の疑問に亭主はいつでも真剣に向かい合って答えを導き出そうとしてくれる一面があるからなのかもしれない。子供の頃、知識がなさ過ぎて疑問すら感じることが出来なかった自分が今、年齢に応じてそこそこの疑問を持てるようになり、娘も交えてあれこれ調べたり討論・議論するのは本当に楽しい。

娘が帰宅すると私はすぐに「今日はどうだった?何かあった?」と必ず聞く。以前は「何もなかった」と漠然と答えた娘は私から罵倒されたもんだ。
「朝6時10分に家を出て暗くなる7時近くに帰宅するまで何も無かったって?誰とも出会わず話さず、何も感じず、思いも湧かずに……お前、バカじゃん」
就職にしても進学にしても面接や小論文などでは、与えられたお題にいかに自分の感性主観を張り付けて他者に伝えるのかが問われる。「何もない」「別に」って返事しか出来ないやつには、それなりの人生しかない。お前はルイ16世か!?って突っ込みたいくらいだ。親に言いたくない・隠したいことがあれば上手にそれを隠す話をすればいいし、ここは認めて欲しいし、それをきっかけに小遣いupを目論むのなら、自分を売り込めと伝えた。今、娘は帰宅しながらその日の出来事を話してくれる。(時々、嘘がばれて盛大にヤキを入れられることもしばしばあるが)


子供の頃、星を見ていた。壮大な空に描かれた星座は、自分の悩みがいかにちっぽけなものなのかを私に教え続けてくれた。妊娠した時、生まれて来るであろうわが子に星や花の名前を教えてあげたいと思っていた。やがて生まれた娘には障害があった。「星の名前も花の名前も教えても理解できないんだな」後にも先にも娘の障害の件で泣いたのは、これを実感した日の夜一回だけだった。あれから10年以上が過ぎて、娘は花と名前の一致は出来ないが、花言葉は驚くほど知っているし、わからない星座があれば自分のスマホを起動させて、詫びも錆もなく「あれ○○座の△△だよ」と教えてくれる。家族の一員として、ある時は15歳なりの知識で理論武装し夫婦の会話にも参戦してくるようにもなった。
私も俯かない。で、また、何か変わったものとか変化を見つけて家族を悩ますから、一緒に考え笑いながら答え探しをできたらと思う。