1日何回歯を磨く? ブログネタ:1日何回歯を磨く? 参加中

「娘さんの写真を撮らせてもらえますか?」
定期健診で通っていた歯科医から、こう問われた。
歯医者と写真??私の中ではこの二つの行為の接点がどうしても見いだせない。イケメン先生に怪訝そうに問うと先生は言った。
「お嬢さん、カリエスフリーなんです」
カリエスフリーとは、生まれてから一度も虫歯になったことがない人を指すと、私はこの日、初めて知った。もちろん、過去に虫歯があったけれど治療して今は虫歯ゼロはこれに含まれない。

自閉症児が虫歯になって治療を受けることは至難の業と聞かされたことがあった。だから、もっとも有効なのは自閉症児を見てくれる歯科医を探すよりも、自閉症児を虫歯にしないことだとも。
娘は乳歯が生える前から、口の中に清潔なガーゼなどを入れて磨く仕草を繰り返ししていた。ある程度、成長してから歯磨きだと言っても言うことを聞かないという事例を散々見聞していたからだ。そのうちに、娘が自閉症だと知った。
それでも、いや、それだから私と亭主は歯磨きに重きを置いて子育てをした。泣き叫んで嫌がることの方が多かったが、私も亭主も歯磨きだけは容赦することなく、磨き続けた。膝の上に寝かせて、大きく口を開けさせて力を抜いたブラッシングを最低でも5分は続けた。亭主は虫歯が多く歯医者での治療の辛さを熟知していたから、この点では驚くほどに積極的に協力してくれた。しかし、我が家の虫歯撲滅作戦に思わぬ伏兵が現れた。それは両家のじじばばだった。

私らの親たちは、平気で口移しで孫に物を食わせようとする。それがあたかも愛情表現であるかのように。しかし、虫歯は虫歯菌なるものが口腔内へ入り込みさえしなければ、虫歯になることはないのだ。じじばばの昭和10年代からの筋金入りの虫歯菌を娘の口に入れてはならないと、私も亭主も絶えずじじばばと闘い続けた。私の母親など、自分を汚物扱いするのかとまで言ったが、それでも私は頑として、その行為を善意や愛情として受け入れることはなかった。娘が歯医者の椅子で泣き叫ぶ姿を想像したら、正直、実母と縁を切ってもいいとさえ真剣に思ったりもした。無知から生まれるものに真の愛情なんて絶対にあり得ないのだ。亭主も親たちにあれこれ言われながらも、ついに鉄壁のガードを完遂してくれた。
飽きのこないようにと、様々な歯ブラシを見つけては買う。膝の上に寝かせ、歯の隅々まで丁寧に丹念に磨く。泣こうが騒ごうが心を鬼にして、歯磨きを続けた。将来、金など残せないが、健康な歯だけは娘に残したかった。
小学校入学時の検診で虫歯はなく、その後も虫歯ゼロでも娘は定期的に歯科医の元へ通い続け点検し続けた。痛みを感じたことのない歯医者は、娘にとってはまさにパラダイス。先生はイケメンだし優しいしと。
そして、昨年久々に受けたこの歯科医での検診で「カリエスフリー」を宣言された。歯の写真を自分の医院のサイトに匿名で載せたいと言われ、私たち母娘は首を縦に振った。ちょうど昼休み直前で、先生は全てを終えると挨拶をして自分の部屋へ消えた。歯科医院を出て私たちは歩きながらそのサイトを見ると、既に娘の写真がupされていた。が「ん!?」
画像の横には娘の年齢と、下の名前だけが記されていた。娘は珍しい名で、私自身、同じ漢字で同じ読みを見たのは、過去に某芸能人の娘さん一人だけ。
「また、苗字だけの方がよかったんじゃない?」
画像を見ながら娘と大笑いしながら、家路についた。

カリエスフリーの娘、歯磨きは朝晩各一回で、虫歯ゼロを維持している。私は夜は15分、徹底的に磨く。何があろうが、寝る前の15分歯磨きだけは絶対に欠かさない。