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外出するとよく見知らぬ人から声を掛けられる。
「あの~っ、○○へはどう行けばいいのでしょうか?」
「△△ってお店がこの辺にあるはずなんですが……」
最近気づいたのだが、私に声を掛ける方々に共通する事前行為があった。それは、多くの行き交う人々を見ているうちに私を見つけてくれて、近づくのを待ち声を掛けて来るということだった。理由は分からない。もしもそれを訊ねて「デカくて目立ったから」など言われたら面白くもないので、その点は私も未だにも聞いたことは無い。
見知らぬ他人に声を掛ける行為はかなりの勇気が必要だと私は思う。なので私は出来うる限り、答えを見出そうと自分なりの努力をする。記憶を辿ったり、スマホを使ってみたり、場合によっては私が近くの店やインフォメーションを探しそこで訊ねるのだ。どうやっても分からない時は「お役に立てませんで申し訳ありません」と深く頭を下げる。相手が英語圏の人ならば、昔執拗にウイッキーさんが連呼していた「Have a nice day」を付け加える。ウィッキーさんのおかげで、少しは利口になれた気がするのは有難い。

基本、初対面でも何万人の前であっても私は気にはならない。もしかしたら、今日、人生の中で最も素晴らしい出会いがあるかも知れないと思うと、黙ってやり過ごすなど勿体ない以外の何物もない。今日まで「あとほんの少しだけ勇気があれば……」そう思い後悔することがたくさんあった。病気を抱え行動範囲が次第に狭くなる私は、もうそんなに多くの出会いはないと思う。「平気」か「苦手」の選択肢は無く、そこにあるのは
「話さなきゃ。もしかしたら自分がいなくなった後、亭主や娘の人生に何かしら関わってくれる人になるかもしれないから」
そんな思いだけだ。出会いは自分だけで終わるものではないと思う。思いもよらぬことから、自分だけではなく家族で会ったり、更に友人へとだったりと、少しの勇気で始まる緩やかな波紋は静かに大きく大きく広がっていく。
「もしも、自分がいなくなったとしても、この出会い、どこまで広がっていくのだろう」
そう思うとワクワクさえする自分がいる。医学的な死と背中合わせにあるのは、その人間が死んでも絶えることのない、確かにこの世に生まれ人と関わり繋がれた手の輪。例え自分が死んでそこから抜け出てしまっても、自分が繋いでいた両隣の人たちは自分の手の温もりを確かに知っている。その温もりを忘れぬままに空いた手と手はちゃんと誰かが補ってくれる。なんて、信じたい自分がいる。

忘れられない初対面と言えば、私は真っ先にヨシエとの出会いをあげる。
ドライブしようよ」
と、私は亭主の車に乗せられた。綺麗な景色を見てウキウキして騒いでいたが、車は何だか観光には程遠い住宅街へと進んでいく。
「隠れ家的な美味い飯でも食わせてくれる店でもあるのか?」
の問いに
「リクエストすれば飯は食えるかも知れない」
と、亭主は答えた。そして、亭主はある一戸建ての前に立った。
『ピンポ~ン!』
いきなり玄関チャイムを鳴らすと亭主は素早く私の背後に隠れた。(亭主は163センチ、私は173センチ)亭主の行動に動揺する間もなく、「はぁ~い」と明るい声が聞こえた。そして、扉が開けられ……そこで私は初めてヨシエと対面を果たした。ヨシエがあまりに亭主に似ていて、そこが亭主の実家だと理解するのに時間は掛からなかった。ヨシエは小さな人だった。亭主よりも更に小さな人だった。そのヨシエが見知らぬデカい女を見上げる。私も負けずにヨシエを見下ろした。ヨシエは壁を乗り越え家に入り込もうとしている巨人に戸惑っているようでもあった。
「あの、ウチに何か??」
困惑するヨシエの声に、亭主は私の後ろから顔を出した。
ヨシエは突然、息子連れて来た4歳年上の大女を抵抗なく歓待してくれた。ニコニコと明るく気さくなヨシエを前に「あぁ、この人を後に母と呼ぶことになるのか」と何となく思った。私の感慨深さに反してヨシエは、玄関に脱いだ私の26.5センチのパンプスに異様な程、興味を持った。
「ねーねー、あんなに大きな靴、本当にあるのね」「大きいと値段も高いの?」
ヨシエは靴を量り売りしていると思っているらしい。(確かにサイズが大きいと値段はお高いです)滞在中、ヨシエは嫁になるかも知れない女よりも、その女が履いて来た恐ろしい程に大きなパンプスから興味が薄れることは無かった。
仕方のない事かも知れない。亭主は24.5~25センチの間のサイズで紳士用としては、あまり選択余地はない。母であるヨシエもお父さんもみんな小柄で、ヨシエ宅の玄関先には小さな靴ばかりが並び、その中にひときわデカいガリバーの靴が混ざったのだ。ヨシエ宅にとってはまさに『黒船来襲状態』だったに違いない。

「あのさぁ、実家に行くなら一言くらい言えよ」
帰り道、私はメロスの序章の様に激怒していた。
「前もって言ってくれれば私だって心の準備ってものが……」
「小さいサイズのパンプス履いて来た?」
亭主は笑いながら言った。
その後、ヨシエは息子が連れて来た大女の話を様々な人にしたそうだが、誰一人私の人柄を聞いた者はなく、ただただ26.5のパンプスで盛り上がったそうだ。初対面であれだけ何時間も話をしたにもかかわらず……


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