スケジュール管理はデジタル?アナログ? ブログネタ:スケジュール管理はデジタル?アナログ? 参加中
携帯電話、スマートフォンと何気なく手にするものは、驚くほどのスピードで進化している。携帯も手にした時は正直、便利さよりも思うように使いこなすことが出来ず、苦慮していたものだ。
台目かの携帯の時に私は、自分のスケジュール管理を携帯電話で始めた。確かに便利で使いやすかった。現在から過去未来へと、必要に応じて私のために役立ってくれた。そんなある日、亭主と知り合った頃からの懐かしい数冊の手帳がタンスの奥から発掘された。そう高くもない、ごくごく普通の手帳だった。懐かしさを感じながら私は手帳をめくる。

亭主とは入院がきっかけで知り合った。
亭主は交通事故で運ばれ手術をして、重傷のため何か月も入院生活を送っていた。
そこへ足の手術を行うために、私が入院した。
「……ねぇ、もしかして松葉杖を持つ手が逆じゃない?」
亭主との記念すべき初会話がこれだった。
左足を手術した私は本来、その足への負担を軽減するために手術した反対側の手に松葉杖を持たねばならないはずが、痛い左足に合わせて左手にそれを持って片松葉で歩いていた。確かに痛いし、動きも微妙だった。
その異変に気づきながらも他人とのコミュニケーションをはかることがイマイチだった亭主は、私の奇妙な姿を何日も見続けついに意を決してそれを伝えてきたのだ。
「えっ!?何で?痛いから痛い方の手で持ことに何の疑念があるんだ?」
『コミュニケーション』を『コミニュケーション』と、赤い靴をはいた女の子を連れて行ったのが『異人さん』ではなく『いい爺さん』や『ひいじいさん』と勘違いしている者へ対する説明と同じことを、亭主は私に延々と始めた。
何だか地味で話し声など聞いたことのない目立たぬ男が、名も知らぬ私に必死にの勘違いを是正しようとしている。小一時間も経って、私はやっと亭主がいわんとしていることを理解した。
「見かけは地味だけど、いいところあるじゃん。仲良くしてやるよ」
実に無礼な思考かつ上から目線で、私はその日から亭主と交友関係を結んだ。

まぁ、その後、様々なことがあったが私たちは結婚した。
手帳には退院後、入院当時の数人の仲間と温泉へ行ったとか、飲みに行ったなど予定が細かに書かれていた。その予定はやがて「みんな」とではなく「ふたり」になっていく。手帳の文字はその時の精神状態に合わせ、ある時は楽しく踊るように、ある時は自信なさげに、華やかなシールを貼ってみたり、色ペンを駆使したりと、その都度私の気持ちを表していた。約束が中止になった時、腹が立って思わず黒ボールペンでバツ印を付けた時の気持ちを思い出し私は思わず苦笑した。
それをきっかけに私はあっさりと携帯でのスケジュール管理を放棄した。下手な文字で、でも、その時の精神状態を何よりも顕著に教えてくれる手帳を、私はこれからも大切にしたいと思う。

その後、亭主と出会いの話が出たのだが、過去を美化して浸る私に亭主ははっきりと言いきった。
「オレ、もしも次に生まれ変わっても絶対に松葉杖を逆に持っている女を目の当たりにしてもそれを指摘したりはしないんだもん」

亭主が手帳を持っていたら、私との出会い以降、ずっと無理難題を言われ続け心がやさぐれ華やかな色もなく、黒一色なのかも知れない。