シェアハウス、住みたい? ブログネタ:シェアハウス、住みたい? 参加中

私は住みたい 派!

20代前半私は高校時代の友人M子と一年間、アパートを借りて一緒の部屋で過ごした事がある。互いに田舎から地元を離れ、この札幌と言う土地で仕事をしながら暮らす事になったが、僅かな収入から家賃や光熱費などを支払うのが大変で、どちらともなく「一緒に住もうか?」と話がまとまり同居が始まった。
僅か1年程の同居生活だったが、あれほど密度の濃い1年はなかったと今でも思う。
この家での正式な居住者は彼女と私の二人なのだが、仕事を終え帰宅すると必ず私たち以外の他誰かがいるのである。(隣に大家さんがいたが、当時は非常大らかだった)みんな田舎から出てきて、行くところもなければ金もない。だから必然的に我が家に男女区別なく友人・知人が集結していた。多いときには男女入り乱れて10人くらいで雑魚寝する事もしばしばであった。1年のうち、彼女と二人きりで布団を並べて寝たのは二夜しかなかった。
別段、不純な事をしていた訳ではなく、若い頃にはありがちの「今の世の中は……」「政治が、政治家が!」などと、朝まで生テレビをそのまま田舎モンがやっていたのである。時に失恋したと泣きながら酒を片手に駈け込んで来た男もいれば、私のパンツを平気で穿いてしまうM子。車を持っている者がいれば、その場で金を出し合い、入ったガソリンで往復できるだけの旅に、クリスマスの闇鍋等、まさに青春ど真ん中だった。
あの頃のメンバーは今では皆、物わかりのいい父親・母親となり子供や配偶者に手を焼きながらも日々を過ごしている。

話が前後したが、ある雪の降りしきる夜の事である。
この日、アパートには男性の友人一人に私たち二人の計三人がいた。
週末と言うこともあり、他の友人も来る予定になってはいたが吹雪が酷く皆が遅れていた。一階に住んでいた私たちは、大きな窓に背を向ける様に置いてあるテレビを見ていた。確か笑える映画を見ていたと記憶している。カーテンをしていたが、少し小さめのカーテンは完全には窓を覆う事が出来ず、いつでも窓から向こうが僅かだが見えていた。初めに異変に気が付いたのはM子だった。
それまで在り来たりのアメリカンジョークで大笑いしていたM子が急に静かになった。
彼女の地声は大きく、笑い方にも大きな特徴がある。
自分が楽しいと思うと、誰彼かまわずに隣にいる者をバシバシ叩いて楽しみを共有しようとするタイプだ。それを知っている者は幸いである。数人集まる事があれば、彼女の隣には決して誰も座ることがないのだから。
しかし、知らずして彼女の横に座した者は不幸であった
彼女が「ヒャヒャヒャ・・・・」と、笑い出すと同時に「バシバシ」の洗礼を受け、それ以降は身構えなくてはならないのだから。

「どうした、M子?」
何気なく声をかけ彼女を見ると、身体を硬直させ涙ぐんでいる。映画も佳境で、笑いこそしても涙ぐむシーンなどでは決してない。
……誰かいるよ。誰かがさっきから窓の向こうでここを覗いているよ」
「えっ!?」
言うと同時に、何事もなかったかの様に私は視線だけをM子の言う方へ向けたげっ、本当に誰かが覗いている!
私たちの間には同じ歳の男性がいたが、こいつに至ってはM子以上に恐怖を感じていて、全く使いものになりそうもない。
「こわい・・・」
そうつぶやく彼の顔からも見事に、笑顔も血の気も引いている。部屋は暗めで、窓の外は雪明かりと街路灯の光外の怪しいヤツの姿がはっきりと見えるのだ。姿形などから、あまり身体の大きくない男の様に見えた。友人が来ることになってはいたが、こんな風体の者は友人にはいないし、何より吹雪の夜にこの様な酔狂な事をする者に私たちには全く心当たりなどなかった。確かに緊迫した状況なのだが、その怪しいヤツの姿は悲しいかな「壁に張り付いたイモリ」が如くで私にはどうしても滑稽さの方が先だってしまう。テレビを見ながら私は小さな声で囁いた。
「あいつを捕まえる。私が扉を開けたらM子はすぐに警察に電話する、いいね?」
その時の私には「恐怖感」など存在はしていなかった。頭の中では井上堯之演奏の「太陽にほえろ!」のテーマソングが鳴り響いている。気分はゴリさんであり、テキサス刑事である。
私は何気なくコップを取ったり、お菓子の袋を開けたりしながら適当に会話し、少しずつ扉に近づいた。どうでもいい話をして大笑いをしつつトイレに行くフリをして、内扉のドアノブに手を掛け扉を開けた。怪しい「イモリ男」は何の疑いもなく、相変わらずそのままの体勢で部屋の中の様子を伺っている。
玄関内側に到達した私は「ねーっ、M子。トイレットペーパー買っておいてくれたぁ?」などと大声で話かけながら愛飲していたリザーブの酒瓶を逆手に掴んで外扉のドアノブに手を掛けた。まぶたを閉じて大きく深呼吸をし「1,2,3!!」靴も履かずに私は一気に扉を開けた。突風と共に、吹雪が勢い良く一気に顔面めがけて入って来る。
扉のすぐ横に例の大きな窓があり、私は「イモリ男」と見事ご対面をした。
20代後半くらいの見知らぬ男がボーゼンとしていた。頭ひとつくらい、私の方が背が高かった。互いに一瞬、どうしていいのかもわからなかったが、「イモリ男」が私の右手のリザーブの瓶の存在に気が付くやいなや私の目の前を一気に駆け抜けて行った。
「くそっ!」
私は裸足のままリザーブの瓶を振り上げてその男の後を追いかけた。
外は吹雪であった。雪は降り積もってその雪の下はアイスバーン状態である。
「待てよ、このやろう!!」
吹雪が視界を遮る。太陽にほえろ!気分はもはや消え、八甲田山の死の雪中行軍隊いや、凶器を片手に「イモリ男」を追うその姿はさながら旅の若者に秘密を見られ、何とかその口を封じようとナタを片手に山道を走る「山姥」そのものだったに違いない

どれくらい走ったであろう……男の姿はすでに私の視界から消え失せていた。雪に付いた足跡をたどり走り続けていたものの、「イモリ男」の姿を見失った今、私はだんだん冷静になって来ると同時に冷えと虚しさに身体を包まれていた。頭には雪が積もりすれ違う者が私の出で立ちに奇異な目を向ける。
「イモリ男」を追いかけている姿はまだ様になっていたが、その目標たる人物を見失なった今、どう見てもこの私の方が圧倒的に「アブナイねーちゃん」であろう
「帰ろう……かな。」
方向転換した私は、リザーブの瓶だけは手放さずに道を逆にたどり始めた。

足は冷たさで感覚がマヒしつつある。何故私は今、こんな思いをしながら雪の中を歩いているのだろうか?ひしひしと「イモリ男」に対して新たな怒りがわき上がって来る。
やがて見慣れた風景が視界に入り、気持がほんの少し救われる思いがしてきた。
「ん!?」
私のアパートの前にパトカーが赤灯をつけて止まっていた。

 「あん、たまちゃん心配してたんだよ!!」
M子が玄関先から私の姿を見つけて、飛びついて来た。
「ごめん、見失ってさぁ・・・」
M子が差し出したバスタオルで身体の雪を払いながら、私は泣き出しそうなM子を抱きしめた。(私は身長173.5センチ、M子は150センチである)
「あの、お話を伺いたいのですが……
聞き慣れぬ男の声に振り返ると、そこには制服姿の警官が二名立っていた。子が呼んだものだった。
私はこんな目にあった経緯を延々と「イモリ男」に恨みを込めつつ話をした。話はエスカレートして日本が何故、拳銃所有許可をしないのかまでに及んでいた。
ところが話を聞き終えた若い方の警官が、氷より冷たい目つきで私に言い放った。
「ああっ、こんなビンなんて持って追いかけたの?
 どうするつもりだったの?万が一、相手に怪我なんてさせたらキミを逮捕しなきゃならないんだよ」
「逮捕!?いい?私は被害者なの、被害者。
 部屋を覗かれた上、こんな情けない格好にまでなった私が何で逮捕されなきゃなんないのよ!?」
何の労わりもなくただ責められ続ける私。怒りで身体が内側から熱くなってくるのがわかる。しかし、若い警察官はあくまで冷ややかに話を続ける。
「こんなもので相手を殴れば、怪我をするか下手すれば命にだって関わるんですよ。
 事情はともあれ、相手にそんな事が起きれば逮捕も仕方ないでしょう!」
私の怒りはもう「イモリ男」に対するよりも、目の前にいる国家権力の象徴であるこの若い警官に向けられていた。
「じゃぁ、私たちは覗かれても我慢しなきゃならないの?
 もし、身に危険を感じても何かされるまでは手出しは出来ないって言うの!?」
「イモリ男」を追いかけている時でも私は、こんなにリザーブの瓶を強くは握りしめてはいなかっただろう。心の中で私はすでにこの若い警官に馬乗りになり、瓶で頭をボカボカと殴りつけていた。
「まぁまぁ……その覗いた男に心当たりはなかったんでしょう?
 きっとその男はかわいい娘さんが二人もいて、気になって覗いてしまったんでしょう ね。かわいい娘さんは特に戸締まりに気を付けた方がいいでしょう。私共も、この辺を重点的に廻りますから安心して下さい。」
若い警官を押しのけて、中年の警察官が笑顔で私たちの間に入って来た。
「ねーねー、かわいいだってっ!」
M子の表情に「恐怖」の二文字はもうなかった。
「そーか、あの若い警官がテキサスで、この人が長サンなんだな……
この、極めて険悪な状況をたった一言で流れを変えてしまった彼に私は、太陽にほえろ!の第1話「マカロニ刑事登場!」から第520話の「野崎刑事、カナダにて最後激走」までと長きに渡って何故、長サンが出演していたのかが、今更ながらに理解出来たような気がした。長サンの存在がなければきっとあのドラマは、若手刑事の暴言・暴走で収集が付かなくなっていたに違いない。そう言えば、特捜最前線にも船村刑事がいたっけ・・・彼に至っては一度は退職したのにも関わらず、ビーフシチュー作りをやめて特命捜査課に戻って来ている。

かわいいと言われて悪い気はしない。但し、それはあくまでM子だけの思い)警官によろしくと頭を下げると私はMを連れて部屋へ戻った。
「かわいいだって!!」
M子は上機嫌だ。
疲れた……虚脱感が私を襲う。
「風呂に入るよ、私。」
私の冷え切った身体と心を温めてくれるのは風呂しかなかった。
結局、私はこの夜の来客を全て断り、情けない男・約一名にもとっととお引き取りを願った。これがM子と二人きりの記念すべき第一夜となった。外は一段と吹雪が酷くなっていた。

その後、「イモリ男」も出現することもなく数ヶ月後、私たちはそれぞれの道を歩くべくこととなり、このアパートを後にした。
確かにもしあの時私が「イモリ男」に追いついていたならと思うと、ゾッとする昨今である。しかし、あの「イモリ男」は一体、何をしていたのであろうか?今でも大きな疑問である。

もしもまた、あのメンバーで過ごせるのならばもう一度暮らしてみたいと今でも私は懐かしく思う。(パンツの共用だけは勘弁して欲しい)




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