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つい先月のこと。姑のヨシエ(仮名)と会ってじっくりと話す機会に恵まれた。
私はヨシエという人間が大好きだ。悪意もなく、人の陰口も言わず、自分の体調の悪さも忘れ、町内会の仕事を何年も引き受け続けてる。ヨシエの首を突っ込むほとんどの物事は無報酬であり、むしろ少ない収入から持ち出しになっていることも見逃せない。
さて、私はヨシエとふたりきりになり、どうしても解いておきたい誤解があった。それは、嫁である私が亭主の実家であるヨシエ宅を嫌い、息子や孫までも足を遠のかせているのではとのことだった。
なぜか亭主は隣の市の自分の実家へあまり行こうとはしない。どんなに誘ってもだ。
日帰りで行くことはあっても、ある程度、暗くなると帰り支度を始める。ましてや、子供も独立し二階の部屋は全て空いているのだから、泊まって行こうと言っても、首をブンブンと横に振り逃げるように自宅へ戻る。
これではどう見ても嫁の私が
「あんたの実家って居づらいのよねぇ。さっさと帰ろうよ」
と、唆しているとしか思われかねない。
結婚して20年、私はヨシエに初めて話題を振って、さぞかし今まで不愉快な思いをさせてしまっただろうと頭を下げ謝罪した。しかし、殊勝な嫁の私の態度に反してヨシエは気にする訳でもなく笑いそして言った。
「そりゃ、こんな所に泊まりたくないと思うわよ。だってね、ウチのトイレから真っ直ぐ階段上がってヨシオ(亭主の仮名)の部屋あるでしょう?あそこまで“レイドー”になってんのよ。そんな所にいるのもましてや泊まるなんてあり得ないじゃない」
「れ、れいどー??」
ヨシエの音読言葉が私の脳内では漢字としてどうしても認識できない。いったい、何だよ、「レイドー」って。
「霊の通り道なんだって、この家!」
ヨシエは何かに当選したかのように嬉々として語る。
ヨシエの家の近くにはお寺があるのだが、何でもそのお寺・納骨堂へ行く霊の通り道として、ヨシエ宅が選ばれ毎日、昼夜問わず霊と言うか、理解不能なものが通り続けているそうだ。
ヨシエの語る「レイドー」とは「霊道」のことだったのだ。
「お父さんとふたり暮らししているのに……お父さんと一緒にここにいるのに、トイレから階段上がってヨシオの部屋へ一直線。ヨシオの部屋からはいつでも人の足音もするし、あれじゃヨシオも泊まりたくないわ」
ヨシエは豪快に笑った。いや、ヨシエよ。そこは笑うべき場合じゃないだろう……
ヨシエは霊対策に猫を二匹飼いはじめたが、最初のうち背中の毛を逆立てながら二階を見ていた猫たちも今では、確かに聴こえるであろう「その音」を、聴かなかったことにして寝ている。そして二階にも上がらなくなったそうだ。この10年くらいに至っては、来客までもが二階にいないはずの人影を見るようになったとも聴かされた。時期に関してはお盆とお彼岸時に足音のピークを迎えるそうだ。
「なんかね、こーんな感じの大きさで、びよーんとした髪があって、ひらひらって……」
いくら説明を受けても私には未だに、その言葉を想像すらできない。けれども、それを説明するヨシエは底抜けに明るい。子供二人が独立し、もしかしたら寂しいのかとも少しだけ嫁として胸が痛んだ。
まぁ、霊など屁とも思わないから、息子より四歳も年上で10センチ以上も背も高くデカい嫁を許容出来ているのだろうと思うと、ヨシエの大らかさには感謝しかない。

その夜、亭主にその話をすると
「オレさぁ、自分の部屋に寝ていて思い切り頭を引っ張られて、部屋を出そうになったことがあったんだよな」
と、思い切った告白を今になってしてくれた。
それでいいのかと問う私に、この母と息子の答えはシンクロしていた。
「別にいいんじゃないのかな。それに霊より嫁の方が怖いってかあちゃんも言ってたし……」

ヨシエと舅は今日も霊道を認識しながらも、何事をも笑い飛ばしながら生きている。