<概要>
アルカリ骨材反応とは、コンクリート中のアルカリ分と、アルカリ反応性骨材が化学反応を起こし、コンクリートに有害な膨張を生じる現象。
アルカリ分を多く含んだセメントや、海砂などの使用により、コンクリート中のアルカリ濃度が異常に高まると、アルカリ反応生骨材と、化学反応をおこす。反応生成物のアルカリシリカゲルが給水すると、コンクリートを膨張させ、ひび割れや、強度・弾性係数の異常な低下などの劣化現象を引き起こす。
<劣化状況>
ひび割れの発生
・舗装版のような無筋コンクリート、橋梁の基礎、橋台など鉄筋量の少ない構造物では、網目状のひび割れが発生することがおおい。
・橋梁の上部構造のような、鉄筋コンクリート部材、PC部材では、主鉄筋や、PCケーブルと並行したひび割れが発生しやすい。
・アルカリ骨材反応によるひび割れの特徴は、幅が大きい割合には、深さが比較的浅い。
ポップアウト
・コンクリート表面近くの骨材粒子が膨張して、表面部分のコンクリートが飛び出す。
強度・弾性係数の低下
・アルカリ骨材反応が進行すると、強度、弾性係数が著しく低下する。断面の大きい部材では、アルカリ骨材反応は内部に比べて、表層部における進行が遅いため、強度、弾性係数の調査において留意が必要である。
鉄筋の破断
コンクリートの膨張により、鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の曲げ加工部や、圧接部での鉄筋破断が生じることがある。(橋脚の梁部、フーチング部)
析出物によるコンクリート表面の汚れ
部材の膨張による、目地の閉塞、破損、ずれなど、外観上の変状
<診断>
建設後数年を経過したコンクリート構造物に異常なひび割れが発生し始めた場合には、アルカリ骨材反応が起こっている可能性が高い。
参考URL
http://www.taiheiyo-c.co.jp/business/business01/business0105/
ステップ①
岩種判定
コンクリートの断面を肉眼、ルーペ、実体顕微鏡などにより観察し、骨材の岩石の種類を判別し、ASR反応性の高い傾向の岩種があるかどうかを鑑定。さらに薄片を作製し、偏光顕微鏡で観察し、反応性シリカの種類や量的割合を調べる。偏光顕微鏡では、骨材から発生したゲル脈によるペーストの分断など、ASRの進行状況を直接観察することも可能。
ゲルの分析
コンクリートの破断面や切断面を肉眼で観察し、ゲルの有無や生成の程度、骨材の破断、反応リムを確認。
ゲルが存在すると考えられる部位は、走査型電子顕微鏡(SEM) により形態を観察し、同時にEDS(エネルギー分散型X線分析装置)により組成分析を行い、形態と組成からASRゲルであるかどうかを判定。
ステップ②
コアの促進膨張試験の実施
コンクリート構造物から採取したコアを促進養生して潜在的な膨張量を測定し、今後の劣化進行を予測する試験。潜在膨張量が限界値を超えていることが確認されればアルカリ骨材反応が起こっていると判定される。
<対策>
アルカリ骨材反応は、アルカリ反応性骨材の使用、限界値を超えるコンクリートのアルカリ量、コンクリートへの水の供給のいずれかが欠ければ発生しないことから、
・安全と認められた骨材の使用
・フライアッシュ、高炉セメント等の抑制効果のあるセメントの使用
・コンクリート中のアルカリ総量の抑制(アルカリ総量を3kg/m3以下)
・設計段階でコンクリート中に水分をできるだけ存在させないように配慮する。
<補修>
ASRによる劣化したコンクリート構造物の補修工法を選定するにあたり、構造物の劣化状況が潜伏期、進展期、加速期、劣化期のどの劣化過程にあるかを十分見極め、補修工法に期待する要求性能を明確にする必要がある。
★劣化のグレード
①状態Ⅰ(潜伏期) : ASRに伴う、膨張やひび割れが発生せず、外観上の変状が見られない。
②状態Ⅱ(進展期) : 水分とアルカリ分の供給下において膨張が継続的に進行し、ひび割れが発生し、変色、アルカリシリカゲルの滲出がみられる。鋼材の腐食による錆汁は見られない。
③状態Ⅲ(加速期) : ASRによる膨張速度が最大を示す段階で、ひび割れ幅および密度が増大する。また鋼材の腐食による錆汁が見られる場合がある。
④状態Ⅳ(劣化期) : ひび割れの幅および密度がさらに増大し、段差、ずれやかぶりの部分的剥離、剥落が発生する。鋼材腐食が進行し錆汁がみられる。外力の影響によるひび割れや鋼材の損傷が見られる場合もある。変位・変形が大きくなる。
★要求性能
①外部からの水分の侵入を低減する。
②アルカリシリカゲルの膨張性を低減する。
③部材のASR膨張を拘束する。
要求性能①:外部からの水分の侵入を低減する。(劣化因子の遮断)
ASRによるコンクリートの膨張は反応性骨材の周囲に生成したアルカリシリカゲルの吸水膨張によって、進行する。そのため、表面保護工法によって、外部からの水分供給を遮断、低減することによって、ASRの膨張を抑制することが可能となる。
【表面保護工法】潜伏期、進展期、加速器の段階で適用される。
表面被覆工法:構造物の表面に単層または複層の塗膜を形成し、構造物の外部から水分が侵入するのを防ぐことによって、ASRの進行を抑制する補修工法。施工実績も豊富。
(留意点)
・構造物の残存膨張量が大きい場合、被覆材の伸び能力が対策後のASR膨張進行に追随できずに、再劣化が生じることがあるため、十分な補修硬化が得られるか適用に留意する必要がある。
表面含侵工法 : 撥水系含侵材をコンクリート表面に塗布することで表面から内部に成分を浸透させ、主として、コンクリート表層部に撥水層を形成する工法。
【ひび割れ注入工法】進展期、加速期、劣化期
ASRによってコンクリート表面に発生したひび割れに対し、樹脂系または、無機系の材料を注入し、ひび割れを通じた水分浸入の低減を目的とした工法。単独で適用されることは、少なく、表面被覆工法などの他工法と併用されるのが一般的。
セメント系注入材は、亜硝酸リチウムと併用して注入可能なため、劣化因子の遮断に加え、亜硝酸リチウムによるゲルの膨張抑制効果を部分的に付与することが可能。
要求性能②:アルカリシリカゲルの膨張性を低減する。(ゲルの非膨張化)
リチウムイオンは、アルカリシリカゲル中のナトリウムやカリウムと置換し、吸水膨張性をもたないリチウムシリケートを生成。ゲルを非膨張化させる。
【リチウムイオン内部圧入工法】進展期、加速期
コンクリート躯体に小口径の削孔を行い、そこから亜硝酸リチウムを加圧注入してコンクリート内部に浸透させることにより、コンクリート内部の広範囲にリチウムイオンを供給し、ASRを抑制する工法。ゲルが非膨張化されると、以降、水分が浸入しても膨張反応は生じないため、再劣化を生じる可能性が極めて低い。
・注入量は対象構造物のアルカリ含有量に応じて設定。
・残存膨張生が高い段階で多く適用
要求性能③:部材のASR膨張を拘束する。
ASRによるコンクリート膨張に対し、コンクリート表面に部材を追加してASR膨張を物理的に拘束することを目的とする。残存膨張性が高い段階に適用することが可能。
・部材形状が複雑な場合や、設置可能範囲が限られている場合などでは、膨張拘束効果を得ることができない。
・耐震補強としての各種巻き立て工法と兼用される場合があるが、膨張拘束のために必要となる補強量の算定方法などが明確にされていないため、適用にあたっては、事前に詳細な検討を行う必要がある。
<劣化グレードと適用可能な補修工法との関係>
①潜伏期
ひび割れが発生していないため、外部からの水分浸入の抑制。
・ 表面被覆工法
・表面含浸工法
②進展期
ゲルの膨張によりひび割れが発生しはじめるが、比較的軽微なため、
・ひび割れ注入工法+表面被覆工法や表面含浸工法
を組み合わせ、水分の浸入を抑制し、劣化の進行を抑える。
残存膨張性が高い状況であるため、再劣化が生じる可能性がある場合、
・リチウムイオン内部圧入工法
により、以後の膨張を抑制する。
③加速期
膨張の進行が最大となるため、ひび割れ幅、延長が増大、耐久性能が急速に低下。
残存膨張性が低い場合
・ひび割れ注入工法+表面被覆工法
残存膨張性が高く、再劣化生じる可能性がある場合、
・リチウムイオン内部圧入工法
により、以後の膨張を抑制する。
④劣化期
残存膨張性がすでに収束していることが多く、内部圧入工法のような、ゲルの膨張抑制対策は必要がなくなる。鉄筋破断や、強度低下、構造物の耐荷性能の低下に対する、適切な補強対策を講じる必要が出てくる場合もある、
ASRに対する補修工法を選定するにあたっては、現時点での構造物の状況がどの劣化過程にあるかを十分に見極め、さらに将来的なASR膨張の進行性(残存膨張性の大小)」十分考慮したうえで、適切な工法を選択することが重要である。
【部材接着工法・巻き立て工法】進展期、加速期