現経済危機がまだ予断を許さないのに少々せっかちかもしれませんが、今回は2020年問題と資産運用に関する話題です。

 2020年問題とは、人口爆発によって資源が不足し、一人当たりの水や食料が減少に転じ、世界経済の成長が限界に達するという問題です。さらにその先に2050年問題があります。2050年が人口増加の限界点であり、それは100億人だと言われています。(なお、ここでは2020年・2050年問題が、その内容・時期ともに正しいという前提で考えます)

 2020年問題を言い換えれば”2020年代に世界経済は成熟期に入る”と言えそうです。世界経済が成熟期に入ると、マクロとミクロから、それぞれ気になる点があります。

(1)世界的な経済危機への各国の対処法は、成長期と同じでよいのか
(2)長期分散投資によって資産運用している投資家は、これまでと同じ運用方法でよいのか

 順番に説明しますが、前提として、今の世界経済のライフサイクルを次のように考えています。

【世界経済のライフサイクル】

導入期 1800年前後数十年 イギリスの産業革命、人口爆発の開始点付近

成長期 1910年代 成長前期、アメリカが世界経済の中心になり始めた時期

     1945年以降 成長後期、第2次大戦後

成熟期 2020年? 水・食料・資源の供給が足らなくなる時期

    2050年? 世界人口が減り始める時期

衰退期 2060年代? 初めて体験する地球規模の衰退期


(1)世界的な経済危機への各国の対処法は、成長期と同じでよいのか

 現在の我々は”各国が協調して信用収縮を防ぎ、流動性を確保する”という経済危機に対する鉄則を知っていますが、これは基本的に借金して用立てたお金をマーケットや企業に投入します。借金するということは、長期的に経済が右肩上がりが前提です。つまり、我々が知っている不況の対処法は、世界経済の成長期における不況の対処法であって、成熟期における不況の対処法は知りません。正確には、誰かは知っているかもしれませんが、今はまだ世界の共通認識として確立されていません。

 そのため、2020年前後に世界のどこかでバブルが起き、崩壊に至った場合、成長期の定石どおりに借金を使ってマーケットや経済の下支えをしても良いのでしょうか。世界経済の伸びしろがほとんど無いにもかかわらず、同じ方法で良いのでしょうか。
 各国が協調しないと対処できないことは分かっていますが、借金を使って下支えをしたがらない国が出るかもしれません。そりゃそうです、もう世界はほとんど成長できないのですから、これ以上自国の借金を増やしてデフォルト(債務不履行)に陥るわけにはいきません。しかし、下支えを十分にやらない国が出ると、経済危機が長期にわたって克服できず、デフォルトがデフォルトを呼ぶという最悪のシナリオにならないでしょうか。世界は2009年よりさらに密接に影響しあっているはずです。
 これは、さすがに極端な状況でしょうか。
 それでも、成熟期一発目のバブル崩壊を甘く見ない方が良いと思います。これと似たような事は1930年代に起きています。第一次大戦後は、アメリカが世界経済の中心に成り始めた頃であり、世界経済が導入期から成長期に入った頃と言えます。世界は、成長期における最初の経済危機への対処法が分からず、世界恐慌を引き起こしました。

 1930年代は経済の直し方自体が分からなかった、2020年代は経済の直し方はなんとなく分かっているが実施できない、という違いはあるものの、結局直せないなら同じことです。経済の周期の変わり目は要注意だと思います。


 なお、衰退期はバブルが起き難いでしょうから、現ライフサイクルにおける世界経済の正念場は2020年代だと思います。

 では、その成熟期の経済危機の対処法ですが、残念ながら自分はアホの子が大きくなったに過ぎないので、今までと全く違う革新的な対処法は分かりません。
 ただ、未来のお金が使えないのであれば、次の経済危機までにお金をストックするなり、借金を返すことで対処する体力を付けておけば良いと思います。「100年に一度の不況を克服した我らに怖いものなどないのだ」と多くの人が浮かれている成長期最後(2010年代)の株価・経済上昇局面において、各国政府は無駄な出費を削り、借金を可能な限り返すことが必要です。日本の特別会計のような無駄を削ぎ落とし、純粋持ち株会社のようになって、頭の部分を軽くしておくことも必要でしょう。
 各政府や中央銀行は、逆張り型のリバランス戦略をとる投資家になる必要があります。それも今まで以上にです。民間のマーケット参加者がレバレッジを掛けて過熱しているときに、早い段階でキャッシュを蓄え(もしくは借金を返す)、バブル崩壊後の経済危機には、ここぞとばかりに蓄えていたキャッシュ(少しなら借金も可)を経済市場に流し込む、というのはどうでしょうか。
 まぁ、結局やっていることは今と変わりません(^^;
 でも、どの時点のお金を使うのか、ということが重要だと思うのです。未来のお金が使えるのは今回までです。日本なら2010年代に借金を返しておく必要があるのですが、「骨太の方針2009」において、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化は「10年以内の達成を目指す」となったそうです。かなり先送りされたようです。10年も経ったら、2020年問題に間に合わ・・・もはや無血革命しかないでしょうか。

 ちなみに衰退期には、次の導入期に向けて革命家や革新的な起業家が現れる時期です。日本は一足お先に衰退期直前です。2010年代の衰退期の日本に、革命家は現れるでしょうか。

(2)長期分散投資によって資産運用している投資家は、これまでと同じ運用方法でよいのか

 今回の経済危機を脱すれば、この20年調子の良くない日本市場であっても、新興国に牽引してもらう形で株価がある程度上昇するでしょう。しかし、その牽引役ですら2020年代に経済成長が鈍化するわけです。
 通常、長期分散投資は10年以上の期間を想定しているのですが、厄介なことに2020年はすぐそこです。成長期のやり方である、20年・30年の資産運用なんて出来ないのではないか、と感じてしまいます。

 さあ、どうしましょう。

 『成熟期に入っても伸びしろがありそうな国のウェイトを上げる』というのが第一案です。伸びしろがある国とは、水・食料・資源の確保が出来る国でしょう。そうなると、人口が極端に多くなく、自国に資源があり食料自給率が高い所に有望国があるでしょうか。場合によっては食料戦争や資源戦争もあり得ますから、軍事力も強い方が良いでしょうか。いやはや、何とも物騒な話です。
 第二案は『需給の逼迫するコモディティをポートフォリオに加える』です。悪くなさそうですが、コモディティにはバブルとその崩壊に注意する必要がありそうです。

 これらの方法は、成長期の長期分散投資の延長線上にありますが、そもそも世界経済の成熟期にも通用するのでしょうか。成熟期の始めには前述した(1)の問題があります。対処法を誤れば、経済危機が長引くかもしれません。

 そこで第三案『マーケットの波を利用する』です。マーケットに過熱感が出てきたら、長期分散投資と言えども売却し、キャッシュポジションを増やします(その国の国債がデフォルトを起こさないとして...)。その後の長引くであろう経済危機(株価低迷期)において、伸びしろがありそうな国を軸に再び分散投資を開始します。「言うは易し、行うは難し」とは、まさにこの事でしょうけどね。
 投信による毎月積み立て投資をしている人なら、売却ではなく、積み立てを停止するのが良いかもしれません。もしタイミングを間違えても、今までの積み立て分は株価上昇の恩恵を受けます。思ったとおりに下落すれば、積み立てしなかった時のお金を併せて、株価低迷期に以前より多く積み立てが出来ます。

 投信などを運用する側の人は大変です。経済成長の限界によって、成長期よりリターンを上げ難いわけです。成熟期の最初の経済危機は長引く可能性があり、その後の各マーケットの推移も横ばいかもしれません。さらに、その先に待っているのは衰退期です。そうなると、最近流行りのインデックスファンドがいくらローコストと言えども、長期積み立て用の金融商品としての魅力は減りそうです。その時には新たな運用方法が生まれているのでしょうか。