基軸通貨の多極化、人民元の大躍進は本当にありうるシナリオなのか?

香港の人民元預金急増とオフショアの人民元起債は跳ね上がっているが?


中国が現在選択しているのは通貨スワップと自国通貨決済を二国間で結ぶことで、香港、ブラジル、ロシアなどとドルを通じない取引を行い、人民元を世界に流通させている。しかし、人民元の商品市場、原油相場での決済は不可能であり、中国の対外投資はナイジェリアであれアンゴラであれ、ドルベース! 豪州の資源企業や鉱区買収も、スェーデンもボルボ買収資金も米ドルである。人民元は世界の主要市場からはまだ相手にもされていない現実がある。

とはいうものの人民元のオフショアにおけるシェアは意外に早く予測値を超えた。
香港通貨当局とHSBCの推計によると世界貿易の人民元決済は4000億人民元(6兆円)。香港の人民元預金量は3000億元(4兆5000億円)を超えているようである。(数字は英紙『エコノミスト』、2011年1月22日号)。
しかし人民元の対外貸し出しは0・5%、ものの数にも入らない。円借款や円建てボンドなどと比べても、日本円は遙かに強いことが分かる。

ドルの価値減は世界にパニックを運び、とりわけ原油価格を押し上げた。金融市況を暴騰させたのも、ドルが基軸通貨であれば、減価分をドルの上昇にもとめ、米国は輪転機を回し続けてドルを世界にばらまき、ユーロも人民元もそれに倣った。

この通貨供給量大増刷という通貨戦争に参加しなかったのは日本だけ。だから日本の通貨が世界中で唯一、独歩高となってデノミが20年も続いている。
通貨発行を増大した国々はインフレ、とりわけ中国は猛烈インフレである。

 そのうえ中国には金融市場に透明性も開放性もなく、システマティック・リスクがある。投資家はそれをみているから、上海、深浅、香港の株式指数は低迷したままである。


◆香港の人民元取引を巡る熾烈な戦い

人民元を取引する香港のインターバンク(銀行間)市場は、誕生してまだ6カ月しか経っていないが、既に激しい戦いが繰り広げられている。

 一方の陣営は、今後数カ月間、数年間で人民元の対ドル相場が急騰すると確信しているヘッジファンドやその他の外国人投機筋だ。こうした投資家はただでさえ人民元に飢えていたが、ここへ来て食欲が増している。

ヘッジファンドvs中国企業の戦い

 もう一方の陣営は、香港やその他の海外統治領(オフショア)に子会社を持ち、そのため本土の資本規制を迂回できる数千社の中国企業だ。

 こうした企業は規模が大きい。政府の支援を受けていることが多く、規模に見合う資金力を持っている。オフショア市場の人民元相場が本土の相場から大きく逸れた時はすぐに攻撃を仕掛ける用意ができている。

 「中国勢は企業も個人も賢い商人だから、鞘取りのチャンスがあれば、うまく利用する」。北京に本拠を構える調査会社ドラゴノミクスのアーサー・クローバー氏はこう話す。

 外国人投資家に開かれており、中国政府の直接支配が及ばない香港市場で繰り広げられている人民元の対ドル相場を巡る綱引きは、中国が人民元を国際通貨にしようとする取り組みを進めるに従って一層強まると見られる市場の力の威力を示している。

 中国人民銀行(中央銀行)が為替レートを定める本土とは異なり、香港の人民元相場は制限なしに変動することができる。

香港の人民元相場と本土の相場はなぜ同じ?

 では、中国資産を買おうとするグローバルな投資家の膨大な需要と、人民元が大幅に過小評価されているというほぼ普遍的な見方を考えると、香港の人民元対ドル相場が、事実上、本土の相場と同じなのは一体なぜなのだろうか?

  1月20日、人民元は上海で1ドル=6.5860元で取引されていた。香港の人民元相場は1ドル=6.5805元で、本土の水準よりほんの0.08%高い だけだった。これは年初来最低に近いプレミアムだ。両者のギャップは昨年10月半ばに2.6%に達し、同年7月に人民元のオフショア取引が始まって以来最 大を記録していた。(後略)