■ 企業側も巻き込まれると大ダメージ

 未公開株の詐欺事件の場合、購入した投資家が被害届けを出すことで事件になる場合が大半だが、被害者は投資家ばかりというわけではない。利用された企業にまで被害が及ぶケースもある。

 福岡のA社はベンチャー企業として期待を集めている企業である。この会社、未公開株詐欺に巻き込まれたことで、大きなダメージを負った時期があった。

 ベンチャー企業と言えども、どこでもベンチャーキャピタルやエンジェルがすぐに資金を提供してくれるわけではないことは周知の通りである。ただし、一度キャピタルから資金が入ると、次々に資金提供を申し出てくるキャピタルが現れてきたりする。

 A社も最初の段階で資金的な問題を抱えていた。将来を期待する声は多かったのだが、目の前の資金繰りに窮する時期があり、ここで痛い目にあった。このA社の社長、どうにも資金繰りがままならないため、旧知の大手企業の社長に相談した。すると、その系列の証券会社を紹介され、そこが主幹事証券となったのだが、その証券会社の紹介と言ってキャピタルを名乗る人物(以下B)が現れたのである。

 このB、すぐさまA社に投資を持ちかけ1億円を振り込んできた。驚いたのはA社長である。普段は用心深い社長なのだが、これまでの苦労があったこともあり、喜んでこの資金を受けいれた。ただちょっと気になったのは、1億円分の株式を小口で2,000枚に分けて渡してもらうように依頼されたことである。
 その結果、このBは未公開株を取り扱う企業を3社立ち上げ、一気に個人に販売してしまった。平均価格を90万円で考えると18億円。最初の1億円の投資など安いものである。

 困ったのはA社である。株式が個人に転売されてしまったため、株主の確定ができないため株主総会も開けない事態になってしまった。
 その後、弁護士と相談しながら協同組合を作り、そこに個人から株式を買い上げる形で決着をつけたのだが、株主総会が開けない間は、別のキャピタルからの資金提供も受けられず、事業計画の大幅な見直しを迫られることになってしまった。

 一番悪いのは詐欺師である。だが購入者、企業側とも、こうした詐欺に合わないための用心深さは必要である。とくにベンチャー企業の経営者は、詐欺師から狙われている可能性があることは、肝に銘じておく必要がある。