1 法律による行政の原理


法律の法規創造力の原則 = 国民の権利や自由を直接的に制限し、あるいは国民に義務を課する法規範(法規)は、国民の代表機関である議会によって定立される法律によらなければならないという原則


例外 → 行政立法



法律の優位の原則 = 行政の様々な活動が法律に反してはならないという原則


法律の留保の原則 = 行政が何らかの活動を行う際に、その活動を行う権限が法律によって行政機関に与えられていなければならないという原則



2 法治主義の射程距離―侵害留保説、全部留保説など―



 法律の留保の原則については、適用される範囲という問題がある。


まず、少なくとも国民の権利や自由を制約し、または新たな義務を課する行政活動については、法律の根拠を必要とする。この考え方については一致がみられる。自由主義を前提とする限り、当然のことである。

問題は、その他の行政活動にも法律の根拠が必要であるのかということである。


→ 侵害留保説




3 緊急措置と法律による行政の原理との関係




4 信頼の原則



●最三小判昭和56年1月27日民集35巻1号35頁(Ⅰ-27


Xは、沖縄県のY村に製紙工場を建設する計画を立てた。Y村の当時の村長であったAは、Xからの陳情を受け、工場を誘致してY村所有の土地をXに譲渡する旨の議案を村議会に提出した。これが可決されてから、AはXの工場建設に全面的に協力する旨を言明し、さらに手続を進めた。Xも、村有地の耕作者に対する補償料の支払い、機械設備の発注の準備などを進め、工場敷地の整地工事も完了させた。ところが、ちょうどその頃に村長選挙が行われて工場誘致反対派のBが村長に当選し、就任した。BはXに対し、工場の建設確認申請に同意しない旨を伝えた。Xは、工場の建設や操業ができなくなったとして、Y村を相手取って損害賠償を請求する訴訟を起こした。第一審判決および第二審判決はXの請求を棄却したが、最高裁判所第三小法廷は破棄差戻判決を下した。

判決においては、地方公共団体の施策が変更されること自体に違法性は何ら存在しないと述べられている。しかし、施策が特定の者に対する具体的な勧告や勧誘を伴い、「その活動が相当長期にわたる当該施策の継続を前提としてはじめてこれに投入する資金又は労力に相応する効果を生じうる性質のものである場合には」この施策が活動の基盤として維持されることを信頼するのが通常であり、そのような場合の信頼は法的に保護されるべきである、と述べられている。そして、施策の変更によって「社会観念上看過することのできない程度の積極的損害を被る場合に、地方公共団体において右損害を補償するなどの代償的措置を講ずることなく施策を変更することは、それがやむをえない客観的事情によるのでない限り、当事者間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとして違法性を帯び、地方公共団体の不法行為責任を生ぜしめるものといわなければならない」と述べられている。

1 公法・私法二元論


(1) Q 行政による権力的行為については、登記という対抗要件が必要になるのであろうか?


●最一小判昭和35年3月31日民集14巻4号663頁(Ⅰ-9) → 必要


滞納者の財産を差し押さえた国の地位は、あたかも、民事訴訟法上の強制執行における差押債権者の地位に類するものであり、租税債権がたまたま公法上のものであることは、この関係において、国が一般私法上の債権者より不利益の取扱を受ける理由となるものではない


●最大判昭和28年2月18日民集7巻2号157頁(Ⅰ-8) → 不要


農地買収処分が権力的な手段による強制的な買い上げであり、民法上の売買とは本質を異にするから、自作農創設特別措置法による農地買収処分に民法第177条の適用は認められない


つまり、事案の性質、法律の趣旨などに照らし合わせて考えなければならない。



(2) 公法は管理関係というものをも規律する


●最一小判昭和59年12月13日民集38巻12号1411頁(「行政判例百選Ⅰ」第4版の1番)は、公営住宅の利用関係について、基本的に民事法上の賃貸借関係と同様であり、民法や借地借家法の適用があると述べている。但し、●最判平成2年10月18日民集44巻7号1021頁は、公営住宅使用権の相続権を否定する。



(3) Q 行政法規に違反する行為は、私法上、効力を有するのか?


●最二小判昭和35年3月18日民集14巻4号483頁(Ⅰ-11)


X社は、A社(食品衛生法による許可を受けている)の代表取締役であるY(食品衛生法による許可を受けていない)に対して精肉を売り渡した。しかし、Yは内金を支払ってはいたが、代金のうちの残りの部分を払っていなかった。Xは、その残りの部分と遅延損害金の支払いを求めた。これに対し、Yは、自らが食品衛生法による許可を受けていないこと、取引の当事者はXとAであってYではないことなどを理由として、売買契約が無効であると主張したが、判決は、食品衛生法を警察取締法規と理解した上で、この法律による許可を受けていない当事者との取引は、私法上の効力を否定されないと判示した。


これに対し、契約や取引の自由を規制することを目的とする統制法規に違反した行為の場合は、私法上の効力は否定される。


●最二小判昭和30年9月30日民集9巻10号1498頁(Ⅰ-12)


Xは煮干し鰯の売買について、当時の臨時物資需給調整法などによる資格を得ていなかった。XはYに煮干し鰯千貫を売り渡し、引渡しも済ませたが、Yが代金を支払わなかったので、Xが訴えを提起した。判決は、臨時物資需給調整法などを経済統制法規と理解した上で、この法律に定められた登録などを行っていない無資格者の取引は、私法上の契約としても無効である、と述べた。


しかし、最近では、警察取締法規と統制法規との区別を絶対視しないという傾向がある。すなわち、警察取締法規に違反する行為が常に私法上有効であるとは限らないし、経済統制法規に違反する行為が常に私法上無効であるとも限らない。


(4) Q 公法の規定において認められる、または禁止されていない行為が私法に違反する場合における、私法上の効力の有無


建築基準法第65条に基づき、準防火地域において耐火構造の外壁による建築物が建てられたが、その建築物が民法第234条に違反する(境界線から外壁まで50cmも離れていなかった)という場合、その効力はどのようになるのであろうか。



1 日常生活と身近な行政の具体例


水、下水道、電気、ガス、ごみ、税金、出生届、婚姻届、離婚届、死亡届、義務教育、自動車免許、鉄道料金、マイホーム新築、都市計画、災害対策、競馬、パチンコ、など。警察や消防などの活動も忘れてはならない。直接的か間接的かを問わないならば、現代社会において、行政と無縁の生活を過ごす日は皆無と言ってよいだろう。



2 立法、行政、司法の例外


立法 → 資格争訟の裁判(議員) 弾劾裁判所(裁判官) 


行政 → 政令の制定


司法 → 最高裁判所の規則制定権



3 立法とは


形式的意味の立法 = 国法の一形式である法律を定立する機能


法律は、国法の一形式である法律を定める機能を有する国会が定立する法であるということになり、同義反復の説明で終わることになる。


国会は法律を定めることができる。法律とは、国会が定めた法。


実質的意味の立法 = 法律、政令などというような法の形式ではなく、「法規」という特定の内容を有する法規範を定立する機能をいい、現在では、およそ一般的・抽象的な法規範全てを定立する機能


国会は法律を定めることができる。法律とは、「法規」という特定の内容を有する法規範



4 司法とは


CがDを殺したということは、CがDの権利を完全に否定したということであるから、その意味においてはCとDとの権利関係が存在しない訳ではない。また、犯罪は、個人に対するものばかりではなく、社会全体に対するもの、国家に対するものも存在するが、その場合であっても、社会全体の利益や国家の利益を損なうのであるから、社会全体に対する法律上の関係、国家に対する法律上の関係が問題となる。


5 行政とは


規制行政と給付行政の区別